6 避けられぬもの
授業が終ると、すぐに片付け、また馬車に乗り込んだ。
リョクの表情は授業前とさほど変わらないように感じた。いつもより険しい表情をしている。シュレンは議会で何があったのか聞きたかったが、聞く必要のある話なら時間が空いたときにいつも教えてくれるので聞かなかった。
馬車はあまり乗り心地がいいとは言えない。ガタガタと揺れるので脳出血を悪化させたり、妊婦には重荷になる。そんなこと、シュレンには関係なかったが、そんなことをぼんやり考えながら外の風景を見ていた。
「シュレン」
暗い声でリョクが呼びかけた。声色が良くない。
「何でしょうか」
シュレンはリョクの顔を見て言った。リョクは一呼吸してから言った。
「シュバン連合軍がすぐそこまで来ていることは知っていますか?」
「はい」
「魔術師達が戦いに行き、死者も出ています」
リョクは目を閉じた。ここから先を言うのが辛いようだ。
「その戦争に・・・私達も行かなければならないことになりました」
シュレンは思わず息を呑んだ。予想はしていた。でも、行く事になるかもしれないというのと、行かなければならないというのは重さがあまりにも違っていた。
「何人、行くのですか?」
「3人の弟子を連れて来いと、又、弟子が強ければ一人だけで構わないと言っていました。しかし・・・シュレン、貴方は将来素晴らしい魔術師になるでしょう。そんな貴方を連れて行き、貴方にもしものことがあれば・・と・・」
「そんなの、私は構いません。私がその、素晴らしい魔術師になる可能性は100%でないじゃないですか。私が行きます。他の人に、辛い目に遭わせるのは・・・嫌です」
リョクはため息をついた。
「できれば貴方を連れて行きたくなかった。危険ですし、精神的にも辛いことですから」
「私は、女として生きたくはありません。それに、戦いから逃げ、生き延びた人にもなりたくありません。逃げて生き延びるくらいなら、向き合って死ぬ道を選びます」
そう言うと、リョクは悲しげに微笑んだ。
「ええ、貴方ならそう言うだろうと思っていました。では、・・・・・・よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
この選択が、私にとって大きく道を変えてしまうことを知っていたのならば、私は、戦いから逃げ、生き延びた人間になっていたのかもしれません。