11 夜空に誓う
全ての予定が終わり、シュレンはようやく開放された。机の上に置いてある日記(読まれないように魔術をかけてある)を持ち、屋根に上がった。月や星が輝いている。羽ペンにインクをつけ、日記を書き始める。これは毎日の習慣だ。
書き終えると、思わずため息が出た。リアンの無邪気に笑う顔が浮かぶ。何考えてんの!?と思い、思わず顔を赤くした。
(・・・悪い人じゃないけどさ・・)
『馬鹿なことすんのはやめろよ』
ふいに、真剣な顔でそう言ったウォルの顔が浮かんだ。
(・・何であんなに怒ってたんだろう?)
「あーあ」
夜空を見上げた。
(・・でも)
(私の事を心配してくれてたんだよね)
月が雲から現れた。
(・・・・生きる。私は。誓う。私は、絶対に死なない)
心の中で、そう呟いた。
最悪だよ、あの男。ウォルは窓から夜空を見上げて思った。
(何で割り込んで来るんだよあいつ。何て名前だったっけリアン・・だったか)
シュレン的にはナイスなタイミングで青年との間に割り込み、そして見事に青年を追い払った。
(あぁ~~超ムカつくッ!!何だよ!俺が追い払おうとしたのに!!おまけに肩まで抱きやがって!フザけんじゃねえぞ!!)
ふと、シュレンが浮かぶ。灰色の瞳の奥にある紅い瞳。風に靡く髪。
(な・・何であいつのこと考えてるんだよ!?俺!!)
ウォルはくしゃくしゃと頭を掻いた。
(あいつ、絶対気付いてないよな。鈍感だし)
(俺が守る。あいつを)
月を見つめ、心の中で誓った。
(俺があいつを守る。絶対に、あいつを守るんだ)
「リアーン」
リオンがにやにやしながら弟に呼びかける。
「ねぇねぇ、アンタ、惚れたでしょ?惚れたんだろ?ん?ん?」
「姉さん・・意味わかんなくなってるよ」
「えぇ~~~わかるでしょ~~~~。アンタ馬鹿?それでもアタシの弟?」
「姉さんの方が馬鹿だと思うよ」
リオンは興味津々という感じで言った。
「シュレンちゃんよぉ。シュレンちゃん。アンタ、あの娘に惚れたでしょ?ね?そうでしょ?」
「何で畳み掛けるような言い方になるんだよ」
いいじゃんいいじゃ~ん?とリオンが笑いながら言う。
「ね、惚れてるんでしょ」
リアンはニコッと笑って言った。
「うん。そうだよ?」
「キャーーー!!いいねいいねぇ??うん。やっぱ惚れたんだ!キャホー!!」
「何で姉さんのテンションが上がるのさ」
「いいじゃないいいじゃない。うん。あ、でもさ、ウォルって子いたじゃない?ほら、1歳年上の。あの子も絶対シュレンちゃんに惚れてるよね~うん」
リアンは顔をしかめた。それには気付いていたのだ。
「そうなんだよなぁ~」
「ま、頑張んなさいよ」
アタシ寝るね、と言ってリオンは去っていった。窓から夜空を見上げた。
(シュレンさん。君は僕が必ず守ってみせる。どんなに危険でも)
夜空に月と星が輝いていた。3つの誓いは、月に向かって飛んでいった。