心だって空色になる
私は人形。
わたしは幽霊ちゃん。
日の差す午後の公園。
その日陰のベンチ。
そこでゆっくりと休んでいます。
たとえ疲れぬ身体であっても、
心は疲れます。
ゆえに休息は大事です。
これまで色々ありました。
なのにたった一日でした。
情報整理が追いつかない。
まるっと一日休みたい。
そんな気分でわたしはお昼寝。
私も同じようにすやすや。
体を自然に任せてみれば、
優しい風が吹いている。
/
これからどうしよう?
まどろみの中で考える。
私は違う世界に行ってみたい。
三日後には神社に行って、
水咲さんにまた会いたい。
わたしはまだこの世界に居たい。
家族を諦めたくはない。
当てはどこにもないけれど、
時間は沢山あるのだから。
対立ぎみな私たち。
でもでも体は一つしかない。
両立しない私たち。
どっちも叶える手段がほしい。
世界の広さを知ったとしても、
私は何も変わらない。
どうにも無力な小さな命。
それでも何かできるはず。
それでも夢を見れるはず。
そんな小さな希望を抱いて、私たちは明日を想う。
/
私がうとうとしていたら、
いつのまにか誰かが来ている。
それは素敵なご来客。
ランドセルを背に負った、
学校帰りの少女が一人。
私をじっと見つめています。
見ていて楽しいものでしょうか。
わたしは少しの緊張感。
注目されるのは苦手です。
「かわいいかも・・・」
まだまだじっと見つめます。
目線を合わせて見てきます。
そんなに可愛いものでしょうか。
なんだか怪しい目つきです。
好奇の的にされてるような。
変な感覚がぞわぞわします。
「・・・きめた!」
その一言が響いた途端、
片手でぐっと掴まれて。
捕まってしまう私たち。
「いっしょにあそぼ、ね!」
話しかけてくれてはいるけど。
それはどうにも一方的。
それに握りも窮屈です。
もっと優しくしてください。
「どこに行く?」
それからあちこち連れまわされて、
時にはぶんぶん振り回されて。
頭がクラクラしてしまいます。
耐久性はありません。
「つぎはすべり台に行こう!」
でもでも。
少女の表情はとても笑顔。
楽しそうで何よりです。
「ブランコこぎたいな~」
そうだけれどもとわたしが言う。
確かにかわいい子どもですが、
何をするにも限度があります。
「公園一しゅうしちゃおっか!」
公園内をぐるぐると。
時には遊具を昇り降り。
目まぐるしく変わる景色。
早すぎるメリーゴーランド。
「まだまだもの足りないよね!」
落ちつくときまで耐えましょう。
今は体を預けるときです。
/
ようやく止まった子供の回転。
私たちはへとへとです。
休んでいたはずなのに、
逆に疲れてしまいました。
今は少女の肩の上。巨人の肩に座るよう。
遊具の一番高い場所から、一緒に空を見ています。
「・・・ねえ、お人形さん。
わたしの話、聞いてくれる?」
さっきまでとは打って変わって、
トーンの下がったその声色。
一方的には終わらない、通じ合えそうな雰囲気です。
もちろん聞くよとわたしは想う。
たとえ言葉が届かなくても、気持ちは届いてくれるはず。
「あのね、わたし・・・一人ぼっちなの」
「友だちもいなくて・・・それで、一人であそんでて・・・」
小さな少女の切ない告白。
わたしも気持ちがわかります。
切ない気持ちが私に届く。
私の心は青色に。
もしかしたら私もあの時、
寂しかったのかもしれない。
「・・・だからね。
いっしょにあそんでくれて、ありがとう」
どういたしましてとわたしは想う。
色々大変だったけど、誰かの為になれて嬉しい。
こちらこそと私は想う。
あなたと一緒に遊んだお陰で、
私の心も豊かになった。
私とわたしだけじゃない、誰かと共にある世界。
きっと"みんな"で支え合えば、心だって空色になる。
「お空、きれいだね」
晴れ渡る空を眺める。
雲ひとつない、空色の空。
きっとこの空の下に、わたしの家族も生きている。
穏やかな時間が流れる。
ずっとこのままでいることも、
あるいは私の幸せなのかも・・・
「・・・あの、あのね」
少女は何かを言いたげです。
恐れず素直に言いなさい、そんな言葉をわたしは想う。
ちょっと上から目線かな?
「わたし、お人形さんと・・・」
「・・・ごめん、おトイレ行ってくる!」
遊具の床にそっと置かれる。
少女は一目散に駆け出す。
用を済ますその時まで、
私たちは待ちましょう。
・・・そういえば。
わたしは幽霊ちゃんだから、
それも必要ないんですね。
距離が近いようで遠いような。
そんな少女を私たちは待つ。
一分、二分、三分、四分。
少女は姿を見せません。
五分、六分、七分、八分。
数分経っても帰ってきません。
わたしはちょっと心配になって、
遊具の下の様子を見る。
そこには不安げな少女が一人。
「お人形さん、どこにいるの・・・?」
少女が私たちを探しています。
所在を忘れてしまったのでしょうか。
ここにいるよと言いたくても、
私たちは喋れません。
「・・・言いたいこと、あったのになあ」
少女は落ち込み諦め様子。
このままではいけません。
今すぐ駆け付けたいけれど、
私たちはあくまで人形さん。
バレちゃったらダメなのかな・・・?
そうして悩む間にも、少女の涙はこぼれてく。
待ってなんていられない、
そう想ってわたしは飛び出す。
「・・・お人形さん?」
ふよふよと浮いて、少女の目の前に。
「もしかして、ホントに・・・生きてるの・・・?」
実は生きているんです。
言葉の形で伝わらなくても、命は証明できます。
「・・・うれしいなっ」
素敵な泣き笑いの表情で。
少女は私たちをぎゅっと抱き締める。
涙が私たちの頭に落ちて、
ちょっとだけ水びたし。
「ねえ、ねえ、お人形さん。
わたしと・・・友だちに、なってくれる?」
もちろん、と言いたいけれど。
私たちは喋れない。
あなたの気持ちに応えられない。
「・・・うん、そうだよね。
人間と人形じゃ、友だちになれないよね」
その言葉に心が痛む。
わたしが希望に応えられないことにも、
私の前に壁があることにも。
もしも。そんなことないよって、言葉にして言えたなら。
あるいは。気持ちを伝える手段を、他に思い付けていたら。
そんな想いが心を埋め尽くす。
「・・・でも、なかよしには、なれたよね?」
仲良しだよ、友達だよ、と私たちは想う。
たとえ壁があったとしても。
心が通じ合えた偶然は、奇跡は、本物だから。
「わたし、そろそろ帰らなくちゃいけないんだ・・・」
少女はゆっくり歩いて。
私たちと出会ったベンチへ。
「また会おうね、お人形さん」
約束だよ、とは返せない。
少女の背中のランドセルは、次第に小さくなっていった。
/
これでよかったのかな。
後悔がわたしに絡みつきます。
それより前を向いていようよ。
私はわたしにそう告げる。
通じ合えなかった悲しみより。
通じ合えた奇跡を喜ぼうと。
でも。
悲しみだけは止まりません。
少し寝かせてくださいな。
そう言ってわたしは眠りにつく。
私一人の世界になる。
久しぶりの一人の時間。
お菓子屋探し以来でしょうか。
わたしの心が届かないのは、
なんだか寂しい気持ちになる。
いつのまにか、私は一人じゃなくなった。
一人だけでは、生きられなくなった。
世界が繋がりでできていることを、私は知った。
それはあるいは、自由を縛る鎖かもしれないけれど。
水咲さんに出会って、少女に出会って、わたしと仲良くなって・・・
・・・それも、悪くないかもしれないと思った。
わたしには家族がいたらしい。
私にも家族がいるのかな。
私の家族とは、わたしの事なのかもしれない。
わたしが目覚める時を待つ。
その時は、おはようって言ってあげたい。




