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私の世界は小さな世界

不思議な感覚。

抱擁とはこういうものか。


懐かしい感覚。

心の底から暖まるよう。

わたしの求めていたハグが、

少しですけど叶いました。


とくんとくんと音が聞こえる。

私たちにはない、命の音が。


誰とも知れない誰かさんに、

気付けばぎゅっとされている。

不審な人とは思いません。

何故なら愛を感じているから。


「あっ、ごめんなさい!可愛くて、つい・・・」


いいんですよと言いたいけれど。

わたしたちは喋れません。


むしろ愛され褒められて。

わたしはとっても幸せです。


それからそっと降ろされて、

声の主が見えてくる。


「私の言葉、聴こえてますか・・・?」


長い髪の巫女さんです。

こんな夜中にどうして居るの?


「私の言葉が聴こえていたら、右手を上げてくれますか?」


それにこの人もしかして、

"わたしたち"に気付いてる?

不可思議だらけな人ですが、

右手をそっと上げてみる。


「・・・良かった。話し合えそうですね」


意思が通じるこの感覚。

とっても不思議な気持ちです。

これが他者と言うものでしょうか。


そうよとわたしは私に言う。

初めに私が会う他者が、

優しい人でよかったとわたしは思う。


「ちょっとおまじないを掛けますから、待っていて下さい」


おまじないとは何でしょう。

掛けるものではないような。


おそらくそれは祈ること。

あるいは願いを込めること。

でもこの人は巫女さんだから、

ほんとに何か起きちゃうのかも?


《幽かに在りし霊界よ、その最奥に佇む理よ》

《我の魂とかの者の魂、その交信を今願おう》


複雑怪奇な謎の呪文。

唱えられたその瞬間、不思議な光に包まれて―?


/


「・・・どうでしょうか?」


気付けば周囲は星の世界。

宙に浮かぶわたしたち。

神秘的な夜空の光景。


「綺麗ね・・・」


その言葉で私は気付く。

それがわたしの言葉であることに。


「私もそう想うよ」


その言葉でわたしは気付く。

それが私の言葉であることに。


「「もしかして、これって・・・」」


「えーっと、どこから説明すれば良いのか・・・

 二人組だなんてびっくりですし・・・」


巫女さんと話が通じる。

不思議なおまじないで、私たちは喋れるようになったようです。


「言わなくても解るわ。これは素敵な魔法なんでしょう?

 そしてあなたは魔法つかい!」


わたしが楽しそうに喋る。

姿は人形のままだけど、まるで人間に戻ったように。


「・・・そんな素敵なものではないですよ。

 これはあくまで、一時だけの幻です」


「そうなの?」


「ええ。この霊界交信は、1日に30分くらいしか使えないんです」


「そうなのね・・・」


わたしがちょっと悲しそう。

わたしの気持ちが表情で、今まで以上に伝わってくる。


「・・・自己紹介がまだでしたね。私は古跡水咲ふるあとみさきと言います。人間ですよ」


巫女さんの名前は水咲さん。

とっても素敵なお名前です。


「あなたたちのお名前も、良かったら」


わたしたちのマイネーム?

それは存在いたしません。


「私たち、名前なんてないですよ」


「えっ、そうなんですか?」


しいて言えば人形さん。しいて言えば幽霊ちゃん。

でもでもそれはあくまで仮名。

あるいはあだ名のようなもの。

ホントの名前とは言いにくいかも。


「・・・それは、問題ですね」


何故か水咲さんは憂い顔。

嫌なことでもあったのかな?


そうじゃないでしょと私は言う。

あれは憐れむ表情です。


たとえ幽霊であったとしても。たとえ人形であったとしても。

名前がないのは普通じゃない。

だから仮のものだとしても、

名乗りはするべきなのかもしれない。


「あの、わたしたち、本名はないんだけど・・・あだ名ならあるの」


意を決してわたしが言う。

恥ずかし半分の自己紹介。

勇気を出してやりましょう。


/


「私は人形、中身は空っぽ。特に何もありません。」

「でもでも。私には仲間がいます。」


「仲間のわたしは幽霊ちゃん。実体とかない。」

「人形に憑りつくわるいやつです。」


「ずっといつも二人。見かけ上は一人。気分は三人前。」


「死者と人形。半分づつ命を合わせて、きっと多分生きています。」


/


ゆるむ緊張、安らぐ感情。

きちんと紹介できました。


「良い名前ですね」


「でしょでしょ?」


わたしも水咲さんも良い笑顔。

今までずっと、わたしの顔は私の顔でもあったけど。

こうして離れてみて分かる。わたしの豊かな表情が。


「・・・お話があるのですが、宜しいでしょうか」


どうぞどうぞとわたしは頷く。

次いで私もこくりと頷く。


「それでは、端的に言いますね。あなた達は・・・」


「・・・この世界を、生きづらいと思ったことはありませんか?」


それは意外な視点だった。

だってわたしたちには、この世界しかないものと思っていたから。


私はそうは思わない。他の世界は知らないけれど、

生きてて楽しいのはきっとどこでも同じ。


わたしは少し同意する。幽霊は不便なことばかり。

一旦人から外れてしまえば、生きてゆくのは難しい。


「それって、他の世界がある・・・って事ですか?」


私が疑問を問い掛ける。

私の世界は小さな世界。この町のことしか知りません。


「そうです。人間には人間の世界があるように・・・

 あなたたちのような、幽霊や人形の為の世界だってあります」


「そして私は、あなた達を異界へ導く案内人。わかりやすく言えば・・・

 死神、ですかね?」


「・・・それ、ホントに?!」


「もちろん、本当ですよ」


突然広がるわたしたちの世界。

視野が広がる音がする。


あの廃屋を出た時は、自由を得たと思っていたけど。

それでは全然足りないくらい、世界はとっても広かった。


「・・・ちょっと、衝撃的ですかね」


ちょっとじゃないよとわたしは思う。

異界へ導く案内人。

それはもう人間ではないような。

下手な幽霊なんかより、よっぽど人間やめてます。


「あなた達と出会ったのも、私の方から会いに行ったんですよ。

 死神のお迎え、みたいなものですね」


お迎えなんて言われても、それはそれで困ります。

まだまだ死ぬ気はありません。既に死んではいるのだけれど。


「・・・お迎えって事は、私たち、この世にさよならしないといけないの?」


それは嫌だとわたしは想う。わたしはまだまだハグが欲しい。

どこに居るかもわからないけど、わたしの家族も見つけたい。


「そんな事はないですよ。

 ただ私は、あなた達に広い世界を知ってほしかったんです」


「理解に時間もかかるでしょう。ですから、ゆっくり考えてほしいのです」


「自分たちが何を求めているのか、何がしたいのか。

 これからどうするのか。どんな風に、生きてゆきたいのか・・・」


/


それからはずっと、難しい話の連続だった。

霊の世界に妖の世界。天国地獄に夢の国。

たくさんあります小さな世界。どこまであるのこの世界。


そしてわたしたちと同じような人たちが、他にも居ることも知った。

人形ちゃんが言う通り、夜の時間に生きる人たちが居ることを。


それに・・・わたしたちがもしかしたら、元に戻ったり、

喋れるようになったり・・・そういった可能性だってある事も。


私はその話を聞いて、すぐにでも行ってみたいと思った。

私はお菓子だけじゃなくって、自由も大好きなのだと知った。


わたしはその話を聞いて、どうしようかと迷った。

確かにわたしは幽霊だけど、それでも、この世界に愛着があるから。


そんなことを聞いている内に、時は過ぎていって―


/


「・・・もうすぐ、時間ですね」


時は過ぎてく三十分。

あっという間の時間です。


「もう終わっちゃうの?」


楽しい時間はもう終わり。

魔法は0時に解けるもの。


「ええ、終わりですよ。何かやり残しとか、言いたい事とか・・・

 そういうものは大丈夫ですか?」


わたしのやり残し。

今だからこそできる事。

今だからこそ言える事。

それは・・・


「もうすぐ、体も一つに戻るんですね」


そう。

体と言葉が、今ここにある。

幽霊人形《ゴースト+ドール》だからこそ、出来る事がある。

それはきっと、わたしがずっと望んでた事・・・


すぐ横隣にいる私。

一緒になってしまう前に、

わたしの気持ちを届けたい。


ありがとうって気持ちとか、

ごめんねって気持ちとか、

そういうものを全部込めて。


「・・・これからも、一緒だよ」


わたしが私をぎゅっとする。

わたしはただ、ハグが欲しいだけじゃなくて。

愛し合う関係こそが、欲しかったんだと想う。


「私も、おんなじ気持ちだよ」


私もわたしをぎゅっとする。

私の心をわたしが掴んでくれたから、今の私がここにいる。

私の方から手放すことなんて、ありえない。


これからどこに行ったとしても、

何があったとしても、

わたしたちは、離れることなど出来ないのだから。

それならせめて、とびっきりの仲良しでいたい。


「・・・ふふ、仲良しさんですね」


そうしているうちに、時間が過ぎて。

素敵なおまじないは、光になって消えていった。


/


「さようなら、幽霊さんに人形さん。

 また会いたかったら、三日後にここに来てくださいね」


水咲さんが去ってゆく。

さようなら、とはもう言えない。


元に戻ったわたしたち。

場所は変わらず神社の参道。


これからどこに行こう。これから何をしよう。

選択肢は多すぎて、世界は広すぎて。

その上意見が対立して、決まることなどありません。


それなら、想いのままに飛んでみよう。

何回目かの飛翔の準備。困ったときは飛びましょう。

広い広い自由の中に、きっと答えがあるはずだから。


果てなき夜空を飛んでゆく。どこに行こうか迷ってる。

目指す場所はわからない。それがわたしたちの旅。


向こうに光が見えてきた。東の方から差す光。

私たちは、綺麗な夜明けを見た。


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