怪獣ブースカとゆかいな仲間たち −5
「ママ。鳥はどうして飛べるんだろう。」
幼稚園の帰り道、次男が眠るベビーカーを押して歩く長男が空を見上げ言った。トンビが飛んでいる。
「うーん、鳥だから?」ピングーだって鳥じゃん、とか言われませんように。
「ボクはどうして飛べないんだろう。」
うーん、面倒になってきたぞ。うーん、とか言って答えないでいると
「ボク、空を飛びたいな。」分かる。私だって飛びたい。
「じゃあさ、イベントとかで気球に乗れる機会があったら乗ってみようか。」
「うーん。乗り物が飛ぶんじゃなくて、ボクが飛びたいの。」
「そっかあ。確かに、自分で自由に飛べた方が良いよね。」
そんな話をしている間に家に到着。
手洗い・うがいをして着替えると「今日のおやつはなーに?」と言うので次男を起こしてオヤツの時間だ。
「今日のオヤツはオートミールクッキーだよーん」とクッキーのお皿をテーブルに出すと
「わあ、チョコのクッキーだ!」と二人とも大喜びでバキバキ食べるが、これっぽっちもチョコではない。
チョコ率0パーセント。オートミールと全粒粉、菜種油、メイプルシロップと塩少々が全ての、薄いが顎を鍛える為にかなり硬いそれは、うっかりちょっと焦がして色だけ薄らチョコ。
「美味しいねえ、ニーニー。」
「おいし。チョコのクッキーだね、お兄ちゃ。」
これまでも何度も食べてるクッキーを、口に入れても(ちょっと焦げ味がするだけで)チョコだと喜ぶ兄弟。チョコを食べたことがないということでは勿論ない。視覚情報が味覚を凌駕しているというか、味覚が未発達なのか。記憶力の問題かな。そういえば長男はもっと小さい時、真っ赤なミニトマトを見て「いちごー!」と大喜びで食べていたな。まあ、美味しく食べられて良かったよ。
オヤツの後長男はパズル、次男はブロックで遊ぶ。30分ほどでパズルは終わり、絵本を読んでおしまい。後は遊びの時間だ。
ソファに腰掛けた私の膝の上に次男がよじ登ってくる。腿の上に到達するとぎゅうっと抱きついて、こちらの顔を見上げてにぱぁっと笑うのだ。ひー。何この可愛い動物。
「おー、ニーニー登ってきたの?いらっしゃーい。」と言いながら次男の体をくるんと180度回して前に向ける。
お尻の位置をちょっとずつ前にずらすと同時に自分の足の角度を調節して、
「ばいばーい」しゅるん、と膝下滑り台。大興奮で舞い戻る次男に長男も参戦してエンドレス滑り台地獄。
暫くして、疲れて休憩中。
「ママ、どうしてボクは飛べないんだろう。」わあ、帰ってきた。
「うーん、人間だから?」いや?違ったな。
「失礼。違うね、人間じゃないね。」
「え?」すぐ忘れちゃうので長男はよく『コッコちゃん(鶏)』と呼ばれている。
「パパは ー?」
「ブースカ!」
「だね。」
「え、ママ。パパって飛べるの?」
「知らん。聞いたことないし。大体ブースカが飛べたとしてプースカのイチーチも同じとは限らんし。」
「えー、どうなんだろう?」
「ママねえ、実は子どもの頃に飛ぶ練習したことあるよ。この前『ピーター・パン』観たじゃん?あんな風に飛びたくて。妖精の粉が無かったけど、そこは努力でカバーしようと思ったんだよね。ちなみに飛べなかったよ。着地でふらついて庭石で膝切った。血がブシャー。嘘、ちょっと滲んだだけ。」
今となってはあんな風に飛ぶ姿を想像しただけで目眩と嘔吐感を感じるし、脳や内臓へのダメージが怖くて「飛べる魔法で」と言われても『ピーター・パン』風は無理だ。
「ボクは鳥みたいのがいい。なんで飛べるのか分かんない不思議パワーで飛ぶんじゃなくて。自分で飛ぶ。」
ほう。なかなかカッコイイ事言うじゃないかと感心するが、それだと形変わっちゃうな。
「んー、口で言ってるだけじゃ無理だよね。とりあえずやってみれば?」
なんか面倒になってきてそう言ったけれど、「そうだね!」と弾む声で応えて少し距離を取った。
既に離脱してブロック遊びの続きをしている次男のテリトリーを犯さないようにね。
「ママ、見てて!」
えー、見てなきゃなの?なんて思いながら眺める。手をバタバタと体の脇で振りながら2〜3歩勢いを付けてジャンプ、着地。見るべきポイントが分からん。なのに「どお?」と言う顔でこちらを振り返る。
「普通にジャンプだね。」
「そっかー。羽根がないからかな?」そういう問題かな?
「色々試して良い感じになったら教えて?」
「わかった!待っててね。」
ようやく離脱したが、長男はすぐにも何か見せられそうな気分らしくご機嫌で跳びまくっている。
体感ではもっと長かったが、ものの5分で「ママ見て」が来た。
「ジャンプしてもさ、すぐ着地しちゃうから腕で羽ばたいても効果が無いんじゃない?高い所からスタートしたら滞空時間が長くなるからもうちょっと効果あるかもよ。」
見せられたジャンプと初めのジャンプとの違いが分からなくて、でもなんだか頑張った風の長男に何か言ってやらなければという気分だった。
「じゃあ、ここからだ!」
元気よくソファの肘掛けに飛び乗るとバタバタと暫く羽ばたいて(?)、渾身のジャンプ&着地。
散々バタバタやった後、飛び上がる時にはスキージャンプみたいにぴーんと伸びている。バタバタ要らんな。
「うーん、ちょっとよく分かんないなー。練習するから待ってね。」
いや、私と関係ないところでやってほしいんだが、ちゃんと自分を見てるかどうか時々チェックしている。
「何でだろう。うまくいかないよ、ママ。」
何度かソファの肘掛けから飛び降りて思った結果が得られなかった長男がさも不思議そうに言う。何でだろうね。
「イチーチさあ。跳ぶ前に一生懸命羽ばたいてるけど、飛び上がると同時にピーンッて『きをつけ』の形になってるよ。それって何か意味あるの?」
「え?!ホント?ボク羽ばたいてない?」
空中でも羽ばたいているつもりだったらしい長男は、私が信用出来なかったらしく弟を呼んで目の前で跳んで見せた。
「ぴーん、てなってる。」
「わかった。じゃあ飛んでる間中ずっと羽ばたいてれば良いんだ!」
『目から鱗』というように、がっかりどころか一層やる気が出ちゃう長男。その後も練習。
「ママ。ボクは飛べないみたいだ。」
夕飯の準備で台所にいた私のところへ来て長男が言った。
「どうしてもね、ジャンプした後ピーンッ、てなっちゃう。だから無理なんだね。」
人間が飛べない理由はそれじゃない。でも何か満足そうだからいいか。良かった、『ブースカの子どもだからもしかして足の裏からジェット噴いたりして』とか余計な事言わなくて。
「すごいね。頑張って検証しちゃったね。」
翌日幼稚園の先生に得意げに報告したらしい。お迎えに行った時、先生が「めっちゃ面白かったです。」と楽しそうに教えてくれた。




