長男の大学受験 −1
担任の先生に東大受験を薦められたこともすっかりただの『愉快な話』になった高校2年の晩秋、またしても個人面談。授業・生活態度に問題がない事、行事等への参加姿勢や友人関係なども良好という一連の報告の後、徐に姿勢を正して先生が言った。
「実はお母さんというか、保護者の方にお願いがありまして。」はい?
えーっとですね、と言いながらゴソゴソとファイルから書類を取り出して私に見せながら言う。
「進路というか、志望大学を書いてもらってるんですが、こちらご覧になってます?」
「いえ。見てないですし、聞いてないですね。」
そこには長男の志望する大学として『山梨大学』の名が書かれていた。
山梨大学。山梨学院大学じゃなく?
山梨学院の名前が出てくるのは箱根駅伝の影響だ。そう思えば運痴君の長男が山梨学院志望のはずないので山梨大なのだろう。ワイン作りたいのか?(この時調べたら山梨大にはワイン科学研究センターというのがある)恥ずかしながら山梨と聞いて思いつくのは葡萄、ワイン、信玄餅だ。葡萄は好きだが買いに行くのは長野だし。私(というか私の実家、血の繋がった家族)はアルコールが飲めない。子ども達はまだ分からないが、私は顔が腫れたり蕁麻疹が出たりする。えー、ワイン作りたいかなー?面白そうだけど。
「ゲームクリエイターになりたいとかで。」ワイン関係なかった。
「え、そういう人ってとっくに自分で何かやってたりしません?うちの子パソコンでやってるのって息抜きの音ゲーくらいなんですけど。ゲーム自体に興味があるようには見えないですね。そっち関係で有名だったりするんですか?」
「いやー、特にそんな事もないと思うんですよね。それならそれで他にいくらでもあると思うんですけど、何故そこ?っていう。」
「ホントですね。」まあ、深い理由は無いと思うけど。
「で、ですね。何とかお家の方から説得をお願いしたいんです。この、志望の聞き取り。もう3回目なんです。もう何度も面談して説得してるんですが、またこれ出てきたし、がっくりしちゃって。」
「山梨大はやめろ、と言う事ですか。」
「あー、いえ。そういう話ではなく、東大志望しようよ、という。なんですかね、東大勧めても全然イイ顔してくれなくて。これはもうご両親にお願いするより他無いなと。」
「あー、何か1年の時もそんな話チラッとされましたね。そういえば。」
「そうですか!その時はどんな感じだったんですか?」
「またまたぁ、面白い先生だなーって。本人は『えー』って言ってましたね。」
「えー、ですか。うーん、イチーチ君、東大良いと思うんですよね。副担とか他の先生方にも『イチーチ君東大いーんじゃない』って言われてるんですよ。」先生は長男が東大に向いていると思う所などもお話しされたのだが、思い出そうとしたら次男の時の話と記憶が混ざっていて判別できないのでそこはスルーで。
何とか説得をという先生に、話はしてみますと面談終了。
「ただいまー。ねぇねぇ、イチーチ。ゲームクリエイターになりたいって本当?」
家に帰って顔を見るなり本人(個人面談のため生徒は早帰りで既に帰宅)に確認してみる。
「ママおかえりー。うーん、まあ、そう。」
「そうなんだ。いいね。」
「うん。」
「ママよく分かんないんだけどさー。ゲームの、どの部分がやりたいの?企画したいの?シナリオ?グラフィック?技術的なこと?それと山梨大は関係あるの?」
「うーん、あんまりよく考えてなかったかも。」
フワッとしている。「どんな職業に就きたい?」と聞かれてたまたま思いついたのが『ゲームクリエイター』か?
普通はそう思い付いた後、じゃあそこに関わるどんな仕事があるのか、その中で自分がしたいのは何なのか、考えたり調べたり。そもそも好きなゲームがあったり好きなクリエイターがいるならそこを深掘りしてみるなり、しないかな?
「ゲームが好きで色々作ってみたりしているけど、もっと〇〇〇〇を勉強する必要があると思うので」とか、言われたい。
「考えな。人の話聞いたり本見たりとかもしてさ、いろんな方向から考えた結果出した答えを表明して。イチーチのは『考え中』と同じじゃん。」
「・・・はーい。」若干しょぼくれの長男に、先生から東大を勧められた事を話す。
「うーん、東大かー。」
乗り気でないのは伝わってくるが、強い拒否感も感じない。コレが嫌、という具体的な理由を挙げるでもない。
何となく反抗しちゃってる感じか?
「イチーチ、自分がなりたいものが決まっていて、それに必要な事、具体的に『コレを勉強するために〇〇大行きます』というならそうすれば良いけど。そうでもないなら、『腐っても東大』だよ。




