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9.勇者アイカと消えゆく記憶の光

アイカは握った刀をぎゅっと引きしめ、魔王軍四天王・メイメイに向かって一歩、二歩と踏み込む。


――ぶさり。


鋭い刃がメイメイの腹を裂いた。


思わず声を漏らすメイメイ。

メイメイ「……ウ、ウップス……」

体をよろめかせ、メイメイは膝をついた。ひん死の重傷――その事実が、戦場の空気を一瞬にして重くした。


ナギは目を見開く。

(魔王軍四天王が、一撃でひん死状態……?)


震える声で、メイメイは諦めたように呟いた。

メイメイ「たすけてください……」


アイカは刀を握り直し、迷いの色を浮かべて口を開く。

アイカ「いや、だって……」


苦しげに微笑むメイメイ。

メイメイ「そうだ……勇者アイカ。そしてそこのお嬢さんの、つらかった過去の記憶を、なくしてあげよう」


ゆらりと視線を上げるその瞳には、奇妙な優しさが混じっていた。


メイメイ「どうだい? きっとあるだろう、消したい過去の記憶が――」


静寂の中、二人の胸に重く、不思議な緊張が走った。


________________________________________

アイカの胸に、長く封じられていた記憶が波のように押し寄せる――。

――回想――

かつて、ピピン王国に召喚された四人の勇者。

その一人が、今ここに立つ自分――アイカだった。

他の勇者たちは光り輝く能力を持っていたが、アイカにはただ体が丈夫なだけだった。

戦力外として追放され、異世界で孤独に生きる日々。

その孤独は、冷たく深く、胸の奥まで突き刺さった。

だが、そのとき彼女に出会った。

滅んだ国の姫――死んだ王との約束を胸に、国を取り戻すために戦うその瞳は、決して屈せず、凛として輝いていた。

「この世界を、私たちの手で取り戻すの――!」

アイカはその想いに応え、共に戦った。

エルフの国で捕らえられ、自由を奪われ、

小人の国で魔族と命をかけて戦い、

獣人の国で新たな仲間と友情を育み……

三人の勇者が魔王と戦う背後で、アイカは力を尽くし、共に戦い、ついに魔王を討ち果たした。

戦いの後、勇者たちとの誤解も解け、世界は一瞬、平和に包まれた。

だが、世界の管理者は勇者たちに二択を迫った。

「力を没収され、元の世界に戻るか。それとも能力を保持したまま、この世界に残るか」

他の勇者たちは元の世界を選んだ。

だがアイカは迷わなかった。

姫と共に滅んだ国を復興する――その一心で、残る道を選んだのだ。

しかし数か月後――魔族の復讐が襲い、姫は無残に命を奪われた。

あの笑顔、あの声、あの温もり――すべて、もう二度と戻らない。

「……もう、思い出したくない……」

刀を握る手が震え、涙がこぼれそうになる。

だがアイカは必死にそれを抑えた。

________________________________________


そのとき、目の前に立つメイメイの声が、アイカを現実に引き戻す。


メイメイ「勇者アイカ……君の、消したい記憶を、取り除いてあげよう」


その言葉に、アイカの心は一瞬、揺れた。


だが――


ナギ「だめ!!アイカ君!!」

ナギの叫びが、胸の奥に響き渡る。

その声が、アイカを現実への軌道に戻した。


(そうだ……そのあと俺は、自分の居場所を探し旅に出て……ナギと出会うんだ)

(飢えて死にそうだった俺を、飢えて死にそうなナギがパンをくれた……)


アイカは深く息を吸い、メイメイとの距離を取り直す。


メイメイ「じゃまだ!!」

メイメイが鋭く叫び、ナギに手を伸ばす。


アイカ「なぎ!!!!」

アイカの声が空気を裂き、震える世界に響き渡った。


メイメイ「記憶を読ませてもらうよ」

メイメイの瞳に、涙が静かに流れる。


メイメイ「なんて、不幸な少女なんだ……」

メイメイ「かわいそうにもほどがあるぞ」


その目には、奇妙な哀しみが宿っていた。

メイメイ「生きてたらいいことあるって」


アイカは刀を握り直し、心に決意を刻む――。


そして、刀を振り抜いた。


――真っ直ぐ、メイメイへ届く一撃。


メイメイの体から、光の粒子が空高く舞い上がる。

メイメイ「どうやら、おれはここまでのようだ」


メイメイ「勇者アイカよ、いい気になるなよ。われは四天王最弱だ」

メイメイ「こう、都合よくたおせると思うな」


アイカ「ああ」

アイカは静かに答える。


メイメイ「ナギちゃん」


ナギ「はい」


メイメイ「頑張って生きるんだよ」


メイメイ「はぁ!!」


すると、メイメイの意識に、魔王の記憶の一部が流れ込む――。

魔王は、人間の女の子に恋をしていた。

その子の顔は、ナギにそっくりだった。

魔王「種族の壁がなければ、もっと一緒にいれたのかなぁ……」


メイメイの声は、穏やかで、どこか遠くを見つめるようだった。

メイメイ「アイカ、ナギ……魔王様はかつて、人間の女の子に恋をしていた」


その言葉と共に、メイメイの体は徐々に薄くなり、光の粒子となって空に消えていく。


メイメイ「魔族と人間は分かり合うことは、可能かもしれないぞ」


そして――完全に、メイメイは消え去った。

最後まで、読んでいただきありがとうございます。

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