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7.記憶を奪う平和

ナギたちは、ラララー王国革命軍の地下基地へと案内されていた。


古びた倉庫の床板を外した先に広がるのは、思いのほか広い空間だった。

ランプの灯りが壁を照らし、武器や地図、補給物資が整然と並んでいる。

そこには、大勢の人間がいた。


重たい空気。


だが、その瞳は皆、強い光を宿していた。

ギィスが中央へと歩み出る。

拳を軽く握り、ぐるりと仲間たちを見渡すと、低く響く声で告げた。


ギィス「みんな、紹介する。」


ざわめきがすっと止む。


ギィスは、隣に立つアイカを親指で指し示した。

ギィス「こいつは――異世界から召喚された勇者様だ。」


一瞬の静寂。


そして――

「な、なんだと!?」

「勇者だって!?」

「そんな馬鹿な……いや、黒髪黒目……!」

「なんてタイミングだ!」

「奇跡だろ、これは!!」


爆発したような歓声が、地下基地を揺らした。

誰かが拳を突き上げ、誰かが武器を掲げる。

絶望に抗い続けてきた者たちの顔に、一斉に希望の色が灯る。


ナギは思わず目を丸くした。

ナギ(す、すごい歓迎……)



ギィスは拳を天へと突き上げた。


ギィス「きっと今しかねぇ!!」


その声は地下基地の天井を震わせる。


ギィス「俺たちで魔王軍四天王メイメイを倒して――この国を取り返すぞォォォォ!!!!」


「おおおおおおおおおおおお!!!!!」

怒号のような歓声が爆発した。


武器が打ち鳴らされる。


机が叩かれる。


誰かが涙を流し、誰かが隣の肩を強く抱いた。


絶望の中で燻り続けた炎が、いま一気に燃え上がる。


ナギは圧倒されるように目を見開いた。

ナギ(すごい……みんな、本気なんだ……)


その時――

アイカ「待って!!!!!!」

鋭い声が、歓声を真っ二つに切り裂いた。

ぴたり、と空気が止まる。


武器を掲げたまま固まる者。

口を開けたまま静止する者。


全員の視線が、黒髪の勇者へと集まった。

アイカは一歩前に出る。

その瞳は、熱に浮かされた群衆とは対照的に、冷静だった。


アイカ「……俺はまだ、あんたらの味方になるとは言ってない」


ざわり、と小さなどよめきが走る。


アイカ「まず、この国の“闇”を教えてくれ」

アイカ「話はそれからだ」


沈黙。


革命軍の高揚が、すっと冷えていく。

そして――


ギィス「……あー」

頭をぽり、とかく。


ギィス「わりぃわりぃ。順番が逆だったわ」


けだるそうに首を傾け、苦笑する。


さっきまでの熱血ぶりが嘘のような態度だ。

ギィス「ついテンション上がっちまってな」


ナギは思わず目を瞬かせた。

ナギ(この人……思ったより軽い?)


だが、次の瞬間。


ギィスの目から、冗談めいた色が消えた。


ギィス「いいぜ。教えてやる」

低く、静かな声。


ギィス「この国が、どうやって“平和”を保ってるのかをな」

地下基地の灯りが、ゆらりと揺れる。


そして――


ギィスは、静かに言い放った。

ギィス「洗脳だ。」


空気が凍る。


ギィス「魔王軍四天王メイメイの能力は、十中八九――洗脳だ。」


ナギの心臓が、強く跳ねた。

ナギ(……っ)


ほぼ、正解。


ナギは知っている。

未来の記憶。

未来のアイカから聞いた話。

メイメイの能力は――

“触れた生き物の記憶を改ざんする”。


完全な洗脳ではない。

だが、過去を書き換えられれば、人格も価値観も変えられる。

それは実質、支配と同じだ。


アイカ「洗脳?」

眉をひそめる。


アイカ「なんで、そう思った?」


ギィスは一瞬、言葉に詰まった。

ギィス「……あー」


視線を逸らし、頭をかく。

ギィス「異世界から来たあんたにも分かるように、順番に説明してやる。」


基地の中央に広げられた地図を、どん、と叩く。

ギィス「この世界はな、人間界と魔界で、ほぼ半分に分かれてる。」


ランプの光に照らされた地図には、くっきりと境界線が引かれていた。


ギィス「人間界は豊かな土地だ。水も森も、鉱脈もある。」


ギィス「だが魔界は違う。荒野と瘴気。人間じゃ長く生きられねぇ過酷な環境だ。」


アイカは黙って聞いている。


ギィス「人間界には、人間、エルフ族、ドワーフ族、小人族、獣人族が暮らしている。」


ギィス「魔界にいるのは、魔族だけだ。」


ギィスの声が、少し低くなる。

ギィス「魔族は昔から、人間界の土地に憧れてきた。」

ギィス「だから何度も侵略戦争が起きた。」


ナギは、静かに息を呑む。


ギィス「その歴史の中で、一度だけ、獣人族が魔族側についたことがある。」


基地がざわつく。


ギィス「最終的に魔族は押し返された。」

ギィス「だが、裏切ったと見なされた獣人族は……特に人間から強く憎まれた。」


拳が、ぎり、と鳴る。

ギィス「奴隷として扱われた時代もある。」


アイカの目がわずかに細くなる。


ギィス「だから今でも、人間と獣人族の仲は悪い。」


ギィス「ちなみにドワーフとエルフは、性分が合わなくて昔から犬猿の仲だ。」


アイカ「……へぇ」

淡々と相槌を打つ。

だが、その瞳は鋭い。


アイカ「でも、城下町では種族同士が普通に笑ってた。」


ギィスの口元が、ゆっくりと歪む。

ギィス「だろ?」


ギィス「長い憎しみが、あんな簡単に消えると思うか?」


沈黙。


ギィス「ありえねぇんだよ。」

低い声が、地下に響く。


ギィス「だから俺は思った。」


ギィス「これは“和解”じゃない。」


ギィス「――洗脳されたんだ。」


ナギの背筋を、冷たいものが走る。


未来で聞いた言葉が、脳裏に蘇る。


“触れられたら終わりだ”


メイメイの支配は、剣でも暴力でもない。


記憶。


それこそが、この国の平和の正体。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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