6.ラララー王国と革命男
ワクワク王国の城門をくぐり、ナギたちは隣国(ラララー王国)を目指して旅立った。
風に揺れる草原の向こうに広がるのは、いまや闇に沈んだ国。
ラララー王国は、魔王軍四天王の一角であるメイメイの支配下に置かれているという。
ナギ「本当に行くんだね、ラララー王国……」
馬車の荷台で、ナギはぎゅっと拳を握った。
アイカも武器を確かめ、迫りくる戦いの気配に息を潜める。
ゴトゴトと揺れる馬車。
車輪の軋む音が、不安と緊張を刻むように響いていた。
やがて、空の色がゆっくりと変わる。
陽光は翳り、重たい雲が空を覆いはじめる。
そして――
「見えてきたぞ」
御者の声に、ナギは顔を上げた。
黒い旗がはためく城壁。
馬車はゆっくりと城門前で止まる。
ついに、到着したのだ。
魔王軍四天王メイメイが支配する、ラララー王国へ――。
馬車から降りたナギたちは、重々しい城門をくぐり、城下町へと足を踏み入れた。
……その瞬間。
ナギ「――え?」
思わず、ナギは足を止める。
石畳の通りには色とりどりの露店が並び、香ばしい匂いが漂っている。子どもたちの笑い声が響き、楽器の音色が夕暮れに溶けていく。
そして何より――
屈強なドワーフがエルフと肩を並べて酒を酌み交わし、獣人の商人が人間の少女に菓子を手渡し、その隣では魔族の青年が道案内をしている。
種族の壁など、まるで存在しないかのように。
アイカ「なんだ……ここは」
アイカが眉をひそめる。
アイカ「魔王に支配されているはずだろ」
その声には、困惑と警戒がにじんでいた。
ナギは、ざわつく胸を押さえながら、ふと記憶の奥を探る。
ナギ「アイカ君……噂なんだけど」
アイカ「ん?」
ナギ「メイメイは、平和を愛する優しい魔族だ、とか」
アイカ「はぁ?」
間の抜けた声を上げるアイカ。
ナギ「うん。私も噂しか知らないの。でも……」
ナギは目の前の光景を見渡す。
争いの気配はない。
怯えた表情もない。
あるのは、穏やかな日常。
アイカ「これが……支配、なのかな」
夕日が沈み、空が茜色から群青へと変わっていく。
ナギはぱん、と両手を打った。
ナギ「アイカ君、日も沈んだし、宿を探そう!!」
アイカ「おい、緊張感はどこいった!」
そう言いながらも、アイカは肩の力を少しだけ抜く。
魔王軍四天王メイメイ。
敵のはずの存在が治める、不思議な王国。
胸の奥に小さな疑問を抱えたまま、ナギたちは人間が経営している宿を見つけ、そこに泊まることにした。
木造三階建ての温かみある宿。
看板には“月灯り亭”と記され、窓からは柔らかな光がこぼれている。
部屋に荷物を置き、ほっと一息ついたところで――
アイカ「ここ、食堂があるらしい。行こう」
アイカが扉に手をかける。
ナギ「うん」
ナギは素直に頷き、二人で階下へ向かった。
*
食堂は思いのほか賑わっていた。
冒険者らしき者、商人、そして魔族の姿もある。
ナギたちは空いている席に腰を下ろした。
アイカはメニュー表を手に取り、ざっと目を通すと、それをナギに差し出す。
アイカ「先に選んでいいよ」
ナギ「ありがと」
受け取ったナギは、目を輝かせながら文字を追った。
ナギ「私は、鳥を焼いた定食にする!」
アイカ「俺は……焼いた鳥を串に刺した料理だな」
ナギ「それ、ほぼ同じじゃない?」
アイカ「調理法が違うんだな。コレが。」
妙なところにこだわりがあるアイカだった。
彼が手を挙げ、店員を呼ぼうとした――その時。
どしん。
重たい足音が近づく。
視界に入ったのは、大柄な男。
鋭い眼光。鍛え抜かれた体躯。
ただの客ではないと、本能が告げていた。
男はまっすぐ、アイカの前で立ち止まる。
「この世界では珍しいんだ。黒髪黒目は」
低く、よく通る声。
「……おまえだよなぁ。異世界から来た勇者」
食堂のざわめきが、わずかに遠のいた。
アイカは静かに男を見上げる。
アイカ「あなたは?」
男は不敵に笑った。
ギィス「俺の名前は、ギィス」
拳で自らの胸を叩く。
ギィス「このラララー王国で生まれ育った」
その目に、強い意志の炎が宿る。
ギィス「魔族メイメイからこの国を奪い返すための――革命軍のリーダーだ」
ナギの心臓が、どくん、と大きく鳴った。
平和に見えたこの国に、やはり火種はある。
ギィスは、ゆっくりとアイカへ手を差し出す。
ギィス「勇者様もメイメイを討伐しに来たんだろ?」
その瞳には、期待と焦燥が混じっていた。
ギィス「一緒に戦おう!!」
差し出された手。
アイカは、差し出されたその手を、ただ静かに見つめていた。
力強く、傷だらけの手。
幾度も剣を握り、血と汗を流してきたであろう手だ。
だが――。
アイカ「革命軍、ね」
アイカはゆっくりと顔を上げる。
アイカ「初対面のあんたを、信じられない」
食堂の空気が、ぴんと張りつめた。
ナギは思わず息を呑む。
周囲の客たちも、さりげなく耳をそばだてている。
だが。
ギィスは怒るどころか、口元を吊り上げた。
ギィス「……くくっ」
そして、豪快に笑う。
ギィス「そういうの、嫌いじゃないぜ」
差し出していた手を引っ込め、腕を組む。
ギィス「むしろ、簡単に信じるやつのほうが信用ならねぇ」
その瞳は真っ直ぐだった。
嘘をついているようには、見えない。
ギィス「ついてきな」
ギィスは踵を返す。
ギィス「俺たちのアジトを案内して、仲間を紹介してやる」
ギィス「そして、この国の闇も教えてやる。」
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