表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

六話 ~一ミリの可能性~


夜が明けても、

空気の冷たさだけが部屋に残っていた。


朝の光がキッチンをやわらかく照らし、

瞬がぼんやりとマグカップを両手で包んでいると――


涼太が寝室から出てきた。


少しだけ目の下に影。

でも、昨日のような“よそよそしさ”は不思議とない。


「……おはよ」


その声は、いつもより少し静かで、

でもどこか覚悟を決めたようにまっすぐだった。


瞬は小さく「おはよ」と返す。


沈黙。

カップの中の湯気が揺れる。


やがて、涼太がぽつりと口を開いた。


「瞬がさ、昨日言ってたこと……ちゃんとわかってるよ」


淡々とした口調なのに、

その奥にある強い感情が隠しきれていない。


瞬が顔を上げると、

涼太はまっすぐこちらを見ていた。


「恋愛がわかんないってのも、

今すぐ答えなんて出せないのも……わかってる」


そこで一度、深く息を吸う。


そして――


「それでもさ、

可能性が一ミリでもあるなら……諦めたくない」


その言葉は、

優しいけど、ものすごく強かった。


瞬は息を飲む。


胸が、

理由のわからない音を立てて跳ねた。


返事をしなきゃいけないのに、

喉がうまく動かない。


涼太は視線を落とし、苦笑する。


「迷惑だったらちゃんと言って。

でも……俺は瞬のこと、簡単に手放したくないんだ」


“好き”という言葉は、

もう言わなかった。


きっと、

昨日のあれで相当傷ついたはずなのに。


それでもまだ、

こんなふうに言ってくれる。


(……なんでだよ。なんでそこまで……)


瞬は結局何も返せないまま、

ただ涼太の背中を見るしかなかった。


朝日を浴びたその背中は、

どこか切なくて、

どこかまっすぐだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ