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四話 ~こぼれ落ちた想い~


撮影が長引き、家に着いたころには夜の十一時を回っていた。


玄関を開けた瞬間、

ふわっと温かい匂いが漂ってくる。


「……瞬?」


キッチンの明かりがついていた。

そこにはエプロン姿でご飯をよそう瞬の姿がある。


「あ、帰ってきた。遅かったな」


涼太の顔を見ると、瞬はほっと笑った。


「疲れてるだろうと思って。軽いものだけど作っといた」


テーブルには、雑炊と焼いた鮭、それに温かい緑茶。


優しすぎる。

それが刺さる。


「……瞬、これ……」


「別に。お前仕事忙しいから」


瞬は何気ない風に言うけれど、

涼太にはわかってしまう。


この優しさを、どれだけ自分は欲しがっていたか。


(……だめだ。心が緩む。)


食事中、瞬は「今日こんなことあってさ」と楽しそうに話してくれる。

涼太は頷きながらも、その横顔ばかり見てしまう。


笑ったときの目元。

食べるときの仕草。

さりげなく心配してくれる声。


全部が、好きだ。


食べ終わると瞬が皿をまとめ始めた。


「洗い物は俺がやるよ」


「いいよ、疲れてるくせに。

ほら、ソファ行ってろって」


そう言って笑ってくる。


瞬のその笑顔が。


その何気ない優しさが。


涼太の胸の奥で、ずっと抑えてきた感情をゆっくり押し上げてくる。


(なんでだよ……なんでそんな優しいんだよ。

俺のことなんて何とも思ってないくせに。)


ソファで瞬の後ろ姿を見つめているうちに、

抑えていたものが限界を越えた。


立ち上がった。


気づけば瞬の腕を掴んでいた。


「――瞬」


振り返った瞬は、驚いた目で涼太を見た。


「な、なに……?」


涼太は息をのみ、視線を逸らせないまま言った。


溢れた言葉を止められなかった。


「……好きなんだ」


瞬の動きが止まった。


「ずっと……

子どもの頃からずっと、

お前が誰より好きだった」


瞬は息を呑む。


涼太の声は震えていた。


「優しくされるたびに苦しくて……

でも、離れたくもなくて……

もう、無理なんだ。

隠してるほうが、苦しい」


ほんの一瞬、部屋の空気が止まる。


それは、本当に

“衝動”に近い告白だった。


けれど、

抑えきれなかった分だけ、真っ直ぐで。


涼太は瞬から目をそらさず、

ただ真剣に、必死に見つめていた。


瞬の返事を、

震える心で待ちながら。


撮影が長引き、家に着いたころには夜の十一時を回っていた。


玄関を開けた瞬間、

ふわっと温かい匂いが漂ってくる。


「……瞬?」


キッチンの明かりがついていた。

そこにはエプロン姿でご飯をよそう瞬の姿がある。


「あ、帰ってきた。遅かったな」


涼太の顔を見ると、瞬はほっと笑った。


「疲れてるだろうと思って。軽いものだけど作っといた」


テーブルには、雑炊と焼いた鮭、それに温かい緑茶。


優しすぎる。

それが刺さる。


「……瞬、これ……」


「別に。お前仕事忙しいから」


瞬は何気ない風に言うけれど、

涼太にはわかってしまう。


この優しさを、どれだけ自分は欲しがっていたか。


(……だめだ。心が緩む。)


食事中、瞬は「今日こんなことあってさ」と楽しそうに話してくれる。

涼太は頷きながらも、その横顔ばかり見てしまう。


笑ったときの目元。

食べるときの仕草。

さりげなく心配してくれる声。


全部が、好きだ。


食べ終わると瞬が皿をまとめ始めた。


「洗い物は俺がやるよ」


「いいよ、疲れてるくせに。

ほら、ソファ行ってろって」


そう言って笑ってくる。


瞬のその笑顔が。


その何気ない優しさが。


涼太の胸の奥で、ずっと抑えてきた感情をゆっくり押し上げてくる。


(なんでだよ……なんでそんな優しいんだよ。

俺のことなんて何とも思ってないくせに。)


ソファで瞬の後ろ姿を見つめているうちに、

抑えていたものが限界を越えた。


立ち上がった。


気づけば瞬の腕を掴んでいた。


「――瞬」


振り返った瞬は、驚いた目で涼太を見た。


「な、なに……?」


涼太は息をのみ、視線を逸らせないまま言った。


溢れた言葉を止められなかった。


「……好きなんだ」


瞬の動きが止まった。


「ずっと……

子どもの頃からずっと、

お前が誰より好きだった」


瞬は息を呑む。


涼太の声は震えていた。


「優しくされるたびに苦しくて……

でも、離れたくもなくて……

もう、無理なんだ。

隠してるほうが、苦しい」


ほんの一瞬、部屋の空気が止まる。


それは、本当に

“衝動”に近い告白だった。


けれど、

抑えきれなかった分だけ、真っ直ぐで。


涼太は瞬から目をそらさず、

ただ真剣に、必死に見つめていた。


瞬の返事を、

震える心で待ちながら。

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