二話 ~無防備すぎる瞬~
「瞬、タオル……どこ置いたっけ……」
湯気の残る脱衣所から、ふらっと出てきた瞬は、
なぜか上半身に何も纏っていなかった。
髪から伝う水滴が、首筋をつたい落ちる。
「おい……! せめて何か着ろよ……!」
涼太は慌てて視線をそらした。
だが瞬はまったく気にした様子がない。
「え? 別にいいじゃん。男同士だし」
「いや、よくない……っ」
(無防備すぎる……!)
俳優として鍛えた精神力では耐えられない。
むしろ、長年好きだった相手にこんな姿を見せられたら――
心臓が休まる暇がない。
瞬は何も知らず、タオルで髪を拭きながら涼太の隣に座り込んだ。
「はぁ……あったまった。今日疲れたな〜」
距離が、近い。
いや、近すぎる。
髪からふわっとシャンプーの匂いが広がり、
涼太は思わず呼吸を止めた。
(だめ……ほんと、だめ……)
その数時間後。
瞬は映画を見ながらそのままソファに寝落ちしていた。
横向きになり、毛布もかけず、無防備な寝顔。
「もう……ほんと、警戒心ゼロだな」
涼太はそっと毛布をかける。
その指先が瞬の頬に触れそうになり、慌てて離した。
抑えてきた感情が、同居してから簡単に揺らぐ。
こんな距離で、
こんな姿を見せられ続けて、
平気でいられるわけがない。
瞬の寝息が、やけに近い。
胸の奥に溜め込んでいた想いが、
今にも言葉になるところだった。
「……好きな人と住むって、心臓持たないんだけど」
届かない声。
届かせる気もない想い。
涼太はその場にゆっくり腰を下ろし、
寝ている瞬の横顔を見つめた。
触れられない距離感のまま、
それでも隣にいたかった。




