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53.始めよう

「こんにちは」

「来たか」

「約束ですからね」


 そして私は見る。


「なぜカンヴェス様が?」

「それは俺が言いたい。なぜシェイン様がいるのだ?」


 二人の視線は王太子……いや、ガベーナ様へ。


「私は君たち二人と勝負をしたんだ」

「どういう事ですか?」

「シェインとも勝負をし、また別でカンヴェスとも勝負をしていたということだ」

「国の王太子はそう軽々と約束してはいけません」

「仕方ないだろう、両方持ちかけられたんだから」

「それは……すみませんでした」

「俺も……済まなかった」

「いや、いい。そのお陰でシェインと婚約できそうだからな」

「……どういう事だ?」


 当たり前だけどカンヴェスには分からないようだ。


「私が何度も婚約を持ちかけてくる殿下に対して呆れて、勝負で決めることにしたんですよ。自信はあったのですが……この通り、負けちゃいました」

「殿下」

「なんだ?」

「見たところ、相思相愛では無さそうですね」

「そうだな。一方的だ」

「だったら婚約できる権利を私にくれ。それが内容だ」

「……は?」

「え?」


 どういうこと?

 婚約できる権利の相手って……私だよね?


 なぜカンヴェスが私と婚約したいのだろう?


「どういう理由ですか?」

「君のことが好きだ」


 唐突な告白。


 さてと、どうしようかな?


「まあ殿下が認めるなら構いませんよ。後はバレンティア家が平民の血を入れていいと思っているかどうかですね」

「それに関しては問題ない」

「殿下はどうお考えで?」

「負けたのは事実だ。仕方がないだろう」

「ではこれからはカンヴェス様が私の婚約者ということですか?」

「そうだ。……ありがとう」


 あぁぁ、複雑なことになったな。


「そういうわけで、殿下、申し訳ありません。カンヴェス様、今度、話し合いの時間を設けましょうね」



 ◇◆◇


 そう言って離れていくシェインの後ろ姿を見る。

 彼女には政略的な気持ちで近づいていたはずだ。だが、心が少し痛い。


 ……次の候補を見つけないとな。

 成績がよく、素行も悪くない、優秀な遺伝子を残せそうな相手。


 私は、その相手を探し出すため、二人のことは考えないように歩き始めた。


 ◇◆◇


 そうなのね……

 こっそりシェイン様の後をつけさせてもらったのだけど、そこで知った事実は驚くべきものでした。


 …殿下とカンヴェス様がシェイン様を取り合っている…?


 こんな感じの良く分からない状況になっていたのです。


 だけど、これならシェイン様も幸せになれるわ。


 そう思うと嬉しかったです。


 いつの間にあんな勝負を持ち掛けていたのでしょうか?

 分かりませんが、最近のシェイン様はあまり寮から出ようとしていませんでした。

 それは、こんな事情もあるかもしれませんね。


 ◇◆◇


 俺はシェイン様が出ていくのを見ていた。


 殿下があんな勝負を持ち掛けていたとは思ってもいなかったが……。

 だが、勝負を持ち掛けていたおかげでシェインを手に入れることができた。


 母上、父上にも伝えよう。きっと喜んでくれる。


 シェイン様には、研究できる環境をあげ、自由に過ごしてもらいたい。


 そして、俺はそれを見ておくのだ。


 全ては、俺の悩みを解決してくれたシェイン様のため。そして、そんな彼女に懸想してしまった俺のため。


 俺はさっそく動き出した。


 ……早く報告しよう。

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