38.面倒です
その後、部屋に戻り、夕食を食べた。
……美味しかった。
断定できる。夏休み中ずっとここで過ごしていたら、私はダメ人間になってしまう。
「コリンナ」
「はい」
「私、大抵のこと一人で出来ますからね?」
「ですがそれをお手伝いするのが私の仕事です」
「あと、独り言言うので同じ部屋にいないほうがいいですよ」
「それは聖霊と話す……のですか?」
「ええ」
「でしたら構いません。事情は聞いています。それに、この仕事は王太子殿下からの命なので」
「はい……」
つまり変に遠慮するな、ってことか。迷惑な。
コリンナが同じ部屋にいるのにゆっくりするのは気まずくて、早く寝ることにした。
……ちなみに、外には警備兵がいるそうだ。想像したくない。
朝だ。
「今日は午前中に研究室へ向かいます。午後には王妃様とのお茶会がありますので」
「セイレーア様とはいつ会えるのですか?」
「今日は時間がありません。あるとしても明日でしょう。あと、私に敬語は不要です」
「はい。ただ、敬語に関しては人によって変えるのは難しいのでこのままでいいですか?」
せめて貴族社会に入った平民らしく、場はわきまえさせてほしい。
……はぁ、疲れるなぁ。
ちなみにその後、着替えは一人でできるといったのに手伝われた。
「こんにちは」
「こんにちは、あなたがシェイン殿ですか? 私が今回いろいろ聞かせてもらえることになりました、カリルと申します。今日はよろしくお願いします。早速ですが……」
どうやら彼は興奮しているようだ。矢継ぎ早に私に聞いてくる。
「精霊の大きさは?」「どんな色の髪? 羽はあるの?」「男の子はいる?」「どんなところに多いの?」「何か食べるの?」「〜〜?」「〜〜?」「〜〜?」
一体何個質問されただろうか、そして何個答えただろうか、やっと彼は落ち着きを取り戻した。
「あ、すみません。精霊が本当にいると思うとどうも……。それにあなたは聖女ですよね? 何か聖霊が見える以外にもできることがあるんじゃないですか?」
聖女に対する質問もまた興奮しながら聞かれた。
「さあ……」
「そうですか……」
あからさまに落ち込まれた。
「他に何もありませんか?」
「そうですね……まあまだ夏休みはありますし、シェイン殿もまだ一ヶ月ほどおられるだろう? その時にまたご足労願いたいです」
「いいですよ。ただし……」
「ただし?」
「ちゃんと事前にお伝え下さい」
「ああ、それくらいなら大丈夫ですよ。さすがに常識は持ち合わせております」
なんか乙女ゲームというかそういう系の小説では結構アポなしで来る輩がいるよね。
どうやらこの人はそうではないみたいだけど、だけそこの世界にもそういう人はいそうだから念を入れるに越したことはないだろう。
そして、目指すのは誰にも邪魔されないセイレーア様との時間! 明日は今のところあいているようだし、今のうちにコリンナにアポ取ってもらおうかな?
そんなふうに楽しいことを思い浮かべながら、いったん部屋に戻った。
「シェイン様、午後は王妃様とお茶会がありますので」
あ……
まだまだセイレーア様と会うまでには面倒くさいものがあるようだ。




