2.今後の展望を考えよう
ひとまず状況を整理しよう。
ここは、「聖女の在り方」の世界。そして私はヒロインのシェイン。全属性を使える、聖女と呼ばれる存在だ。
乙女ゲームにありがちな設定として、このヒロイン……つまり私だが、私は孤児である。
まったくヒロインに転生するのも楽じゃない。こんな苦痛の記憶を持って過ごすなら、悪役令嬢になる方が……いや、セイレーア様になっては駄目だ。
いっそモブで良かった。
そして、王太子殿下も同じクラスにいる。なるべくこいつとは関わりたくない。だったら、私はどう行動するできだろうか?
分からない。
この乙女ゲームは「聖女の在り方」という名前の通り、聖女にふさわしい行動をとらせようとしている節がある。その通りに過ごすと、だんだん好感度が上がっていく。そういう仕組みだ。
そして、セイレーア様は侯爵令嬢だ。だけどヒロインが誰を選ぼうが関わってくる。その場その場で絡む相手を変えている、という感じだ。
そのセイレーア様が私の推しである。
確かに毎回出てくるのは何なんだよ、と思ったこともあるが、その行動に私は引かれた。普通はヒロインみたいな人が好きな男に近づいてきても邪魔はできないだろう。
そして、セイレーア様は王太子攻略の時が一番素晴らしかった。だから、私は王太子攻略をよくやっていたのだが……
ここでは私がヒロイン。そんなことは気にしなくていい。
遠慮なく自由にセイレーア様と関われる。
だけど、私はどういう態度で接しておくべきか。
聖女の態度で過ごすと、王太子殿下に好かれるかもしれない。だけど、聖女のようでなければ、セイレーア様には好かれないだろう。
……何も迷う必要はなかった。私は、聖女らしく振る舞おう!
王太子の方は、きっとなんとかなる!
その日から、私はセイレーア様からあの取り巻きを離すべく努力しはじめた。
「あ、セイレーア様!」
ゲームの強制力というやつだろうか?私はセイレーア様と廊下でぶつかりそうになった。もちろん、セイレーア様を怪我させるわけにはいかないから、私が極端に避けることで、それは成立した。
「ププッ…見ました? 今の避け方。醜いったらありゃしないわ」
こういうとき、聖女だったらどうするのかな?
「あら? それは申し訳ないですね。だけど、あなたは人の醜さを指摘できるほど清らかなのですか?」
「ええ。そう思いませんか、セイレーア様?」
「……どうでしょうね」
なんとこの馬鹿、自分が清らかだと信じているようだ。おめでたい。
それに同意するセイレーア様はやはり前世の私と似ている気がする。他人をおもんばかって、自分の本音を言えないのだ。
「そうなのですね。つまり、あなたは人の悪口を言うことは醜くない、と仰るのですか?」
「そうよ、事実を言っているだけだもの」
セイレーア様との衝突を防ぐためにした行動を醜い、というのも?
その瞬間、何かがきれた。徹底的にやってしまおう。
「あら、ではあなたは人とぶつかるほうが清らかだと仰るのですか?」
「……そうよ」
「では今後私はあなたと会うたびに清らかさの象徴としてあなたにぶつかりに行きますね」
「……は?」
「でないと私が清らかであるというのが伝わらないので。セイレーア様、証人になってください」
「ええ、いいわよ」
よし、これで一人は排除できそう。あともう一人、醜い行動を行う人がいたはず。
後から知ったことだけど、今、今度からぶつかることを宣言した相手の名前はリガーレ。そしてもう一人の名はサスレイア、というらしい。
歩いているとき、私の背中をセイレーア様がじっと見つめているのに、私は気づかなかった。