1.転生しちゃった
「ようこそ、カスタニア学園へ」
その一言を聞いて、私は前世を思い出した。
頭の中をぐーるぐーる記憶が渦巻いている。
「お出迎え、ありがとうございます、王太子殿下」
そして、この青年にも見覚えがあった。
これは私が前世で唯一プレイした乙女ゲーム、「聖女の在り方」に出てきた攻略対象者の一人だ。今思っても、なんとも乙女ゲームらしくない題名だ。なのに、それでヒットしたのだから凄いと思う。いや、そんな題名だからヒットしたのか?
ともかく、内容は一般にはちゃんと主人公に共感が持てる内容だった、と思う。
だけど、私は、悪役令嬢セイレーア様が好きだった。
そして、セイレーア様の嫌がらせの対象が聖女の私だ。。
「ああ、教室まで案内しよう」
「ありがとうございます」
そして、ゲームをプレイしていたから分かる。この王太子、私と同じクラスだ。
つまり、自分も行くからついでに送ってやろうということ。
そのことを知っているとあまり好感が持てない行動だ。それでも、送ってくれているんだから優しいではないか、そう思う人もいるかも知れないが、私はそんなに単純ではない。それだけだ。どう思うかは自由だ。
こんな感じで分かるかもしれないが、私、シェインはこの王太子殿下はあまり好きではない。
王太子としては共感できるけど。
だけど、セイレーア様よりも私……ヒロインに最後に持っていかれているのがいけ好かない。セイレーア様もヒロインが王太子を攻略対象に選んだ場合、アプローチするのに。
ただ、そのセイレーア様もこのクラスいるはずで、そのことがこの王太子と二人きりの時間を紛らわせてくれた。
「今日は、編入生を紹介しようと思う」
来た! 私の出番だ。
「シェイン、入ってこい」
「はい」
教壇まで歩く。噂でも回っていたのか知らないが、視線をたくさん感じた。
「今日からカスタニア学園の生徒になりました、シェインといいます。何かと迷惑をかけるかもしれませんが、これからよろしくお願いします」
「こうして編入してきただけで迷惑だっつーの」
「だよね〜」
そうして響き渡る人を小馬鹿にしたような笑い。正確には響き渡ってはいないけど、私にははっきり聞こえた。
ああ、こいつらは私のこと舐めているんだな。
シェインは聖女だ。魔法を全属性使える存在である。そして、何より力が強い。体力面ではわからないが、魔法では勝てるだろう。
だけど、主人公は我慢した。自分は聖女だから、と。
だけど、私は違う。
「何か言いましたか?」
いい笑顔でその人達に近づいてあげる。
「は? 聞こえてんならわざわざもう一度言わせようとするなよ」
この人が貴族?
カスタニア学園は基本的に貴族しかこれないから貴族なのだけど……信じられない。
「あら? 何か言ったら駄目なことでも言っていたの? それだったら先生にお伝えしないと」
「おい! 待てよ」
「では、私に何の不満があるのでしょうか?」
「……けっ」
そう言ってその人は黙った。
あぁぁ……初日から嫌な目にあった。
あの人、確か見たことあったような……気のせいか。
……あ!セイレーア様の取り巻きの一人だった!
そして呆然とした。
セイレーア様の周りにあんなじゃじゃ馬が……これは排除しなくては。
そして、作戦を立てることを決意した。