2. 僕たちらしい気づき
『こんな歌詞が良いとか、こんなメロディが良いとか、そういうのはあります?』
「んー、そうですね·····。メロディは明るい感じが良いです。シンセで音楽を引っ張ってく、みたいな。あとギターも入れてほしいです!」
『ふむ、シンセとギターですね。』
月音は紙に書き込んでいるのか、ペンが紙を滑る音が微かに聞こえた。と、ここで黎空は小さな違和感を、いや既視感のようなものを感じていた。
―――この声聞いたことあるくね?てか毎日聞いてね?
黎空は一瞬悩んだが、月音に声を掛けられたため一度考えを中断されてしまった。
『歌詞はどうします?』
「·······歌詞は、そうだな。·······あんまり『希望を捨てないで!』って感じじゃないのが良いです。」
「と言うと?」
「·······ちょっと自分語りっぽくなっちゃうんですけど。僕は、今までつらいことがあって、一時期は希望なんて見出だせないくらい塞いでたんです。流行りの曲も、感動するアニメも、偉人の名言も、なにも心に刺さらなかった。『希望なんてあるわけないだろ』って馬鹿にしてた。」
黎空は一度言葉を切り、歌ってみたの機材やパソコンをちらりと見ると、吹っ切るように笑った。それは愛想笑いでも嘘の言葉でもない、心からのものだった。
「でも、希望っていうのは在るものじゃなくて、自分から見つけにいくものなんですよ。そう気づけたから、今、ちゃんと生きれてます。」
ちゃんと生きれてるっていうのもなんか変かもしれませんけど、と軽く笑う。
『·······――いいですね。かっこいいと思います。あ、それ歌詞に入れましょう。』
「かっこいいだなんてそんな。照れますよ〜」
にへへ、と笑い声を漏らす声は明るく楽しげだ。月音も微かに笑った気配がした。が、次の瞬間に放たれた月音の一言が、いい意味で今までの二人の雰囲気を打ち砕いた。
『あ、そういやさ。やっぱ黎空だよな?』
「へはっ········。·········い、いや、そーゆー月音さんだって、絶対しおくんじゃんか!」
『なんでそんな慌ててんだ········。黎空も分かってた?じゃあまあ、お互い気づいてたんだな。』
黎空は一瞬、意表を突かれた様子であったが、すぐに月音の正体(?)を取り乱しながらもビシリと言う。それに冷静にツッコみながらも、月音もとい心音は笑みをくすりと零した。
「けっ、このイケメンな笑い方、僕しおくんしか知らねーし。」
『それ褒めてる?内容も微妙だけど言い方が面白いから反応に困るんだけど。』
「褒めとるよ!あぁーもう、イケメンで声も良くて音楽もできて、なんでこんなすごいんだ僕の親友!!」
黎空がダンッと机を叩く音が心音の耳に届き、また軽く笑った。その少し後、『········んなことねーよ。』と心音は謙遜するように、だが少し寂しそうに呟いた。すぐにいつも通りの口調に戻り、なんと驚くことに珍しく黎空を褒め始めた。
『黎空だって、歌は表現力が高くてすごいと思うし、イラストも描けるしでめちゃめちゃすごいぞ。』
「そう言って頂けて光栄ですねぇ。いやーでも僕、譜面とか読めないんだよねぇ。」
『え、そうなのか?』
「うん。でも、音感があるわけでもないよ。音聴いても音階とか全然分からんし。歌みたは原曲を聴き込んで歌ってる感じだなぁ。」
『へえぇ·······。』
「でも、『表現力高い』なんて、嬉しいなぁ。やっぱり僕ボカロが好きだからさ、歌詞の考察とかしちゃうんだよね。歌詞の意味とかを考えながら歌ってるからそう聴こえるのかも。」
ふふふん、と照れながらも得意げな様子な黎空。が、ふいに「あ」と声を上げると、心音に「まだ全曲の打ち合わせ全然できてないじゃん!」と慌てたように言った。さっきまで誇らしげだったのに今度は慌ててる······と笑いそうになったのは、心音の胸の奥に仕舞っておいた。
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