ep.9 烏森 雅のLoHiという挑戦
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1. 夜のオフィスにて
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東京・新橋にある烏森芸能本社ビル。
社長室の窓から見下ろす街の灯りは、どこか儚く、そして力強い。
「——SNSの影響力が、ここまでとは・・・」
デスクの上には、タブレット端末。
そこに映るのは、ある無名の若者が投稿したダンス動画。
どこかの広場、雑音混じりの音源。それでも、彼の動きには確かな輝きがあった。
フォロワーは数万人。再生数はミリオンを超えている。
「……面白い時代になったものだ」
かつて、芸能の世界はテレビが中心だった。
オーディションを勝ち抜き、事務所に所属し、レッスンを重ねてデビューする——それがアイドルとしての“王道”だった。
しかし、今は違う。
誰もが発信者になれる時代。
プロ・アマの垣根が低くなりつつある、スマホひとつで世界中に自分を売り込める。
「だが、それで本当に“スター”になれるのか?」
烏森芸能の若き社長である烏森 雅は、ふっと息をついた。
確かに、SNSから突如としてスターが生まれる時代だ。
だが、そのほとんどが一過性のブームで終わる。
「バズる」ことと「輝き続ける」ことは、まるで違う。
雅は机の端に置かれた1枚の写真を手に取った。
そこには、若かりし頃の彼の父——烏森芸能の創業者が写っている。
「芸能事務所の役割は、変わらない」
時代がどう流れようと、変わらないものがある。
それは、才能を見極め、育て、世に送り出すこと。
だが、このままではいずれ、芸能事務所は“必要のない存在”と見なされるだろう。
芸能事務所がSNSを活用しながら、才能を見極め、育て、世に送り出すプラットフォームを提供する。
そこで私は——「LoHi(リーグ・オブ・ハイパーディメンショナル・アイドル)」を創ることを決めた。
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2. オリジナル5の誕生
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「烏森社長、あなたは、本気でやるつもりですか?」
そう言ったのは、ムサシエンターテインメントの古希武蔵だった。
都内のとあるバー、LoHi発足前の会談の場でのことだ。
「はい、本気です。」
雅は静かにグラスを置いた。
「これからの時代、ただ待っているだけでは、新たなスターは生まれない」
「だが……リーグ戦形式でアイドルを競わせるなんて、前例がない・・・」
「だからこそやるんです」
雅は微笑む。
「SNSの時代だからこそ、 “実力がすべて” のリーグを作る価値がある」
「……なるほど。」
その言葉に、一同は黙り込んだ。
AMNUZM、ムサシエンターテインメント、BEN、アポロプロ、そして烏森芸能。
これまで各々が異なるやり方で芸能界を牽引してきたが、今回ばかりは目的が一致した。
「エンターテインメントの未来は、私たちが創る!」
雅のその言葉を皮切りに、LoHiの発起した5人が代表を務める芸能事務所『オリジナル5』は動き出した。
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3. そして今——
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烏森芸能の社長室。
雅は再び、タブレットの画面を見つめる。
そこには、最近LoHi参戦を表明したキャラランドのオーディション告知ページが映っていた。
「……マスコットキャラクター専門の芸能事務所が、か」
正直、意外だった。
LoHiでは、熾烈な戦いになる。
単なる「アイドル育成の場」ではない。
だが——
「面白い」
雅は微笑んだ。
どれだけの才能が集まり、どれだけのドラマが生まれるのか。
このリーグが、芸能界の新たなスタンダードになることを信じて——
「LoHiは、ただのリーグじゃない。これは、新しい時代を創るための“挑戦”だ」
夜の街に、雅の瞳が静かに光った。