ep.51 “キャラランドフレンズ”――新たな拠点のはじまり
ステージの照明は落ちていた。
誰もいない客席に、社長である椿とチーフマネージャーの雨野の二人の足音だけが、静かに響く。
最終オーディションから、もう1週間が経った。
つい先日まで熱気と声援に包まれていたこの会場も、今はまるで嘘のように静まり返っている。
「……夢みたいだったよね」
ぽつりと椿社長がつぶやく。
ステージを見上げるその瞳に、あの日の光景が浮かんでいた。
「たった1週間前のこととは思えませんね」
雨野が頷きながら言う。「あの瞬間を、皆で迎えられたことが、本当に嬉しかったです」
しばらくの沈黙。
椿社長が前に歩き出し、ステージ脇に手を添えながら、ふと口を開いた。
「この会場……せっかくこんなに素敵な場所なのに、使われなくなるのは、もったいないね」
「はい。あのライブ配信環境も、設備も、活かしようによっては……」
椿が雨野の方を向く。
「たとえば?」
雨野は少し考えたあと、ゆっくりと言葉を継いだ。
「今回のオーディションで、本当にたくさんの人と出会えました」
「567名の応募者のみんな、その中のギルド567メンバー……」
「そして、オーディエンスの皆さんや、ファン、サポーター、そしてスポンサーや関係者の皆さん」
「これから新ユニットが誕生しても、その“つながり”は、もっともっと広がっていくはずです」
椿社長の表情が変わる。真剣に聞き入っている。
「だからこそ、必要だと思うんです」
「キャラランドに関わってくれるすべての人が、いつでも帰ってこられる場所。情報を受け取り、想いを届けられる場所。そんな“場”が」
「……つまり、ここを拠点にする?」
「はい。キャラランドと新ユニットに関るすべての人が集う場所として、リニューアルできたらと」
椿社長はふっと笑った。「そのアイディア、いいかも」
「みんなが集う場所。。そんな名前がつけられたら……」
椿社長が言葉を探すように視線を泳がせたあと、ふと微笑んだ。
「“キャラランドフレンズ”っていうのは、どうかな?」
「キャラランドフレンズ……」
雨野が呟き、しばらくしてから、確かにと頷いた。
「いいですね。キャラランドの仲間たち、って意味合いも込められますし」
椿はもう一度、静まり返った客席を見渡した。
「ここから、新ユニットに関する情報を発信していく場所」
「デビューまでの軌跡を共有する場所」
「ギルド567メンバーの活動も伝えていく場所」
「そして、ファンの人たちが、あの子たちを応援できる場所」
「キャラランドに関わる全ての人のための、帰ってこられる“場所”それが“キャラランドフレンズ”」
雨野が、胸元で手を組んで深く頷く。
「“キャラランドフレンズ”、正式に始動させましょう」
二人の間に、これからの決意が確かに芽生えた瞬間だった。
──静かな会場に、新たな鼓動が生まれた。




