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ep.50 未来のマネージャー宣言~9人目のメンバーを目指して~

廊下に響く足音が、駆け抜ける風と一緒に近づいてくる。



「――椿社長! 雨野さん!」



声を張り上げながら、伊藤颯太が走ってきた。



制服のネクタイが揺れ、頬は赤い。最終オーディションが終了し、新しい役割について椿社長が発表して、

まだざわめきが残る事務所で、彼の動きだけが、ひときわ鮮やかだった。



「颯太くん?」


振り返った社長である椿の声に、颯太は一気に距離を詰める。



「……どうしたんですか?」


小首をかしげる椿社長に、颯太は両手を太ももに置き、肩で息をしながら頭を下げた。



「ぼく……どうしても、今、言いたくて!」


息を吸い込んだ瞬間、瞳が強く光る。



「マネージャーにしてくれて、本当にありがとうございます!」



深々と頭を下げた。


その声に、廊下を歩いていたスタッフたちが思わず立ち止まって颯太の方に体を向ける。



「お、おう。いきなり何だ」


雨野 武(あめの たける)が片眉を上げ、笑った。


「まだオーディションの熱、冷めてねぇんじゃないのか?」



「はい……でも、今日がマネージャーとしての本当の始まりだって、そう思ったんです」


顔を上げた颯太の目には、曇りのない意志があった。



「ぼく、まだまだ学ばなきゃいけないことばかりで……でも、絶対、絶対メインのマネージャーになりたい! そして――新ユニットを、人気アイドルユニットにします!」



その拳は小刻みに震えていた。


けれど、その震えは恐れではなく、未来への決意の証だった。



椿社長は一瞬、目を細めた。


彼の言葉に、社長としての誇らしさと、ひとりの先輩としての温かさが同時に胸を満たす。



「……その言葉、聞けて嬉しいです!!」


椿社長は笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。



「でもね、颯太くん。マネージャーになれたからって、そんなに喜ばないで。単に颯太くんもスタートラインに立っただけ。……」



「……え?」



「これからもずっと学びを止めないでほしいんです」


椿の声は、やわらかく、それでいて芯があった。



「高校を卒業したらキャラランドに来てもいい。大学に進学した後でもいい。どんな道を選んだとしても、学ぶことは止めないでほしいです!」



颯太は瞬きをした。喉がひとりでに鳴る。



ずっと「高校を卒業したらキャラランドに入社する」――それが答えだと思っていた。


でも椿社長は、それ以上を見ている。未来の、自分の成長のことを。



「……学びながら、仕事を……」


その言葉を繰り返すと、隣で雨野が肩をすくめた。



「この世界、正解なんてすごいスピードで変わるからな。俺らだって“勉強し続ける”のが一番むずかしい」





「だからこそ、」


椿社長は雨のの言葉に重ねる。




「颯太くんなら、できるって信じています。だって、オーディションを受けた彼らと同じように、今日までずっと全力で駆け抜けてきたんだもの」



「9人目のメンバーだと言われるように頑張ってください!!」



その目は、まっすぐだった。まるで、未来を照らす灯りのように。


颯太の胸に、熱が広がった。


喜びだけじゃない。未来という言葉の重さが、静かにのしかかる。


けれど、その重みを抱えられるなら――。



「……はい」


彼はゆっくりと顔を上げる。



「ぼく、考えます。仕事も、学びも、どっちもあきらめない道を。


そしていつか、本当に“9人目のメンバー”って、胸を張れるように――」



椿社長と雨野は顔を見合わせ、同時に微笑んだ。


颯太の背中に、次のステージの風が吹いていた。


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