ep.48 名前を呼ばれた、その瞬間―キャラランドGENSEKIオーディション合格者発表―
キャラランドの配信スタジオは、いつもよりもひときわ明るい照明に包まれていた。
白と青のバナーが高らかに掲げられたセットの中心、ぴょこんと姿を見せたのは、赤いほっぺがトレードマークのべにほっぺだった。
「みんな、集まってくれてありがと~っ!今日はいよいよ……キャラランド初の男性アイドルユニット、その最終合格者を発表する日ですっ!」
続いて登場したのは、三毛猫のガレットたん。白いペンダントを胸元で揺らしながら、しれっとした顔で隣に並ぶ。
「緊張してる人、手をあげて~!……ガレットはあげちゃうにゃ。ドキドキが止まらないにゃ」
カメラの向こうでは、視聴者からのコメントがひっきりなしに流れている。それは、この数か月、彼らとともに歩んできた人たちの、祈りに近い声だった。
「それでは、まずは……オーディエンス投票で選ばれた、上位3名の発表ですっ!」
べにほっぺが深呼吸をしてから、前を向く。
「投票第1位は――英賀田雪雄くんっ!」
その名前が告げられた瞬間、スタジオの空気がわずかに震えた。
真っ直ぐで、真面目な彼が歩んできた道が、ここで結ばれたのだ。
「つづいて、第2位は……根古島カノン(ねこじま かのん)くん!」
音楽という世界に、ずっとひとりで向き合ってきた少年。そのまなざしは冷静で、だけど心の奥には、誰かと分かち合いたいという願いが確かにあった。
その名前が呼ばれた瞬間、張りつめていた静けさが、やさしくほどけた。
「第3位は……京極真秀くんですっ!」
落ち着いた瞳と、頬を染める一瞬の表情。
姫たちから“推し”として愛され続けた彼が、ついにアイドルとして歩み出す。
「みんな、ほんとうにおめでとうっ!」
ガレットたんが嬉しそうに両手を広げた。
「さて、ここからは――審査委員会による選出メンバーの発表ですっ」
べにほっぺの声がやや引き締まる。選考は最後の最後まで悩まれたという。
「まずひとりめは、折原千鶴くん!」
まっすぐで、たどたどしくて、だけどどこまでもピュアな高校生。
何度も自信を失いかけた彼の名が、ついに読み上げられた。
「つづいて……狭山那音くん!」
強さと弱さの境目で揺れていたその背中が、いま、しっかりと前を向く。
その名が呼ばれたとき、彼の拳が小さく震えた。
「Daz・Garciaくん!」
誰かが落ち込んでいたら、真っ先に声をかける。
自分より仲間を笑わせることに、全力になれる人だった。
そのあたたかさが、このユニットに必要だった。
「そして、最後のひとりは……
………
………
………
赤河辰煌くんですっ!」
ストイックで近寄りがたく見えた彼が、静かに目を閉じる。名前を呼ばれるまで、自分を信じることを誰よりも課していた。
「以上、オーディエンス投票で選ばれた3名と、審査委員会が選んだ4名、合わせて7名の発表でした!」
拍手とコメントが画面を埋め尽くすなか、べにほっぺがふっと笑う。
「そして、キャラランド初の男性アイドルユニットにとって“はじまりのひとり”。
もうひとりのメンバーがいます!!」
「そう。――佐藤 翔太くんですっ!」
その名前は、特別な響きをもってスタジオに広がった。
歌をまっすぐに愛し、誰かに届けたいと願った彼が、8人目の仲間としてユニットに加わった。
「これで、全員だよ」
ガレットたんがくるりと回って、にっこりと笑った。
画面には、8人の名前とビジュアルが静かに並ぶ。
英賀田雪雄
根古島カノン(ねこじま かのん)
京極真秀
折原千鶴
狭山那音
Daz・Garcia
赤河 辰煌
そして佐藤 翔太
画面に8人の名前とビジュアルが並び、拍手のコメントが次々とあふれていくなか、
モニターの一角に、キャラランド社長・稗田 椿の姿が映し出された。
ベージュのセットアップに身を包み、凛とした瞳でまっすぐ前を見据える。
年齢を感じさせない落ち着いた口調で、彼女は語り始めた。
「キャラランドとして初めての男性アイドルユニット――この挑戦に、想像以上の熱量が集まりました。
それはきっと、私たちだけでは辿り着けなかった景色です」
言葉を一つひとつ確かめるように、椿社長は続ける。
「応援してくださった皆さん。参加してくれた567名の才能。ギルドで切磋琢磨し続けた仲間たち。そして、今日ここに名前を刻んだ8人。
このすべてが、“キャラランドらしいアイドルたち”が集まってくれたと、私は心から思っています」
彼女の目元が、少しだけやわらぐ。
「彼らはまだ、完成していません。だからこそ、これからの時間を、ファン、サポーターの皆さんと一緒に積み重ねていきたいと思っています。
どうかこの8人を、育てるように、楽しむように、見守ってください」
一瞬の間を置いてから、椿社長は小さく笑った。
「キャラランドの“夢”、ここからが本番です。引き続き、よろしくお願いいたします!!」
画面がゆっくりフェードアウトする頃には、コメント欄に「社長ありがとう」「これからも応援する!」という声があふれていた。
ここから、彼らの物語が本当の意味で始まる。
配信の終わり、べにほっぺが小さな声でつぶやいた。
「みんな、これからが本番だよ。──キャラランドの、アイドルの、第一章が始まるんだっ!」




