ep.45 参戦の名乗りをあげよ――LoHi参入バトル
キャラランド本部、午後一時。
真夏の日差しが窓際のガラスににじみ、エアコンの冷風が弱々しく唸っていた。
「……というわけで、現時点でLoHi参入表明済みの事務所は5社ですね」
PCモニターを指差しながら、岡マネージャーが報告する。
その横で、猫沢ゆうがペンをくるくる回していた。
「キャラランドが一番乗りして、江ノ島プロが続いて……そこに来て、この3社、か」
「KMエンターテインメントジャパン、杵築芸能、そして『能』――ですね」
椿社長がうなずく。
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◆ LoHi新規参入バトル、ついに5社が名乗りを上げた。
今年元旦に始動が発表された、新たなタレントリーグ『LoHi(League of Hyperdimensional idol)』。
主催は、烏森芸能・アポロプロ・ムサシエンターテインメント・BEN・AMNUZMの大手5社、通称『オリジナル5』。
リーグ初年度にLoHiに参加する「残り参入3枠」――この限られた椅子をめぐって、参入バトルの火蓋が切られようとしていた。
6月末時点での参入表明社は以下の5社である(表明順):
•キャラランド
•江ノ島プロモーション
•KMエンターテインメントジャパン(KMEP)
┗ 韓国芸能大手の日本支部。オーディション番組出身の実力派ユニットを多数擁する。
•杵築芸能
•芸能事務所「能」
┗ 外資系投資企業が資本参加する新興事務所。日本芸能の海外発信を掲げて設立された。
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「これでもう、“参入バトル”の実施は確定ですよね?」
猫沢が小さく笑みを浮かべる。
岡もうなずいた。
「ええ。3枠に対して、すでに5社ですから。あと1社でも来たら、さらに競争は熾烈に……。」
椿社長は無言で頷き、視線を壁の一角へと向けた。
そこには、最終オーディションに参加した20人のビジュアルが並んでいた。
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◆ 参入バトルとは何か?
LoHiは、オリジナル5所属のユニットの参入が決まっている。残り3枠をかLoHI設立と同時に募集を行なっていた。
応募が3社を超えた場合、「参入バトル」と呼ばれるユニット同士の参入戦が行われる。
詳細はまだ公表されていないが、2025年8月上旬に正式発表される予定だ。
「いよいよですね、椿社長」
猫沢が振り返る。
「キャラランドが参入を宣言してから、半年以上経って……最初は、何もかもが“雲をつかむような話”でしたが、今は確かな手応えがあります!」
「はい。いま、キャラランドは“次のステージ”に進む準備ができています!!」
椿社長の言葉は、決して強くはなかったが、静かな芯があった。
「候補者の皆さんも……本当に、よくここまで来てくれましたよね。最終審査で選ばれる7人と翔太くんがこの先の鍵を握る存在になるのは間違いないです」
猫沢はそう言いながら、ふっと視線を落とした。
口元にはやわらかな笑みが浮かんでいるが、その目はわずかに潤んでいた。
悔しさも、誇らしさも、期待も──全部、噛みしめているような目だった。
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◆ 7月末まで、そして――
LoHi参入表明の締切は、2025年7月31日。
そこまでに名乗りを上げた事務所の中から、最大3社が“本戦”へ進む。
選ばれるためには、何をもって魅せるか。何を信じてぶつけるか。
「参入締切りまでのこの1カ月……静かに見えるかもしれないけど、中ではきっと、一番熱い1カ月になるんじゃないでしょうか!」
椿社長の言葉に、猫沢が深くうなずいた。
「杵築芸能も、“能”も、カラーが強いですしね。KMEPなんか、海外含めて番組仕込みで候補者を集めてきそうな気配ありますし」
「でも、そとはそと、うちはうち。キャラランドは、キャラランドのままで勝負しましょう!」
「たぶん、それがいちばん強いですよね」
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キャラランドは今、静かに力を蓄えている。
最終オーディションの発表を控えながらも、8人の可能性はすでに次の光を灯し始めている。
ここまで歩んできた日々を、まっすぐ信じて。
LoHi参入表明の締切まで残り日数――あと24日。
LoHiという、誰も見たことのない舞台へ。
その最初で最後の関門が、じりじりと近づいてきていた。




