ep.43 幕が下りたその先で
7月1日、午前0時。
「最終オーディションの投票が締め切られました」
その一報に、キャラランドのオフィス内は静まりかえった。
椿社長はデジタル時計をちらりと見てから、スタッフに向き直った。
「お疲れさまでした。これで、すべての選考が終わったことになります」
けれど、その口調に浮かぶのは安堵よりも、気の引き締まるような緊張だった。
「ここから先は、発表の準備と、ユニット始動のための最終調整が始まります。7月18日……その日までに、万全の体制を整えましょう」
「“終わり”じゃなくて、“始まり”ですもんね」
猫沢が笑うと、岡マネージャーが頷き、猫太Pはすでに次の企画ファイルに目を通していた。
一方その頃、キャラランドギルド567のボイスルームでも、新しい投稿がいくつも並んでいた。
「終わったな」「あっという間だった」「マジで濃い1か月だった」
仲間たちの言葉に、笑顔の者もいれば、画面を見ながらぽろりと涙をこぼした者もいる。
“選ばれること”だけがすべてではない。
それでも、あのステージに立ちたかった気持ちは今もある…。
そう思いながら、それぞれが自分のこれからを考え始めていた。
「……このままで終われないよな」
「また何かやろうぜ。俺たち発信で」
小さな呼びかけが、ボールルームでじんわりと広がっていく。
そして、もうひとり――
スマホの画面を見つめていたのは、藤原真希だった。
「そっか……これで、本当に終わったんだ」
投票ページには、投票受付終了の文字。
毎日、彼の名前を選んできた。迷いはなかった。1日1票、自分にできるたったひとつの行動。
推しのために何かしたくて、ただ信じたくて、欠かさず続けてきた。
「私にできることは、全部やったよ」
彼なら、きっと――。
自分が惹かれたあの歌声が、きっと誰かの心にも届いているはずだから。
それを信じて、静かに目を閉じる。
7月18日。
幕が下りたその先で、新しい物語が始まることを願って。




