ep.4 ぼくはキャラランド所属練習生、佐藤翔太
「佐藤翔太、17歳です! 趣味は歌うこと! 特技も歌うこと! 以上!」
そう言うと、大体の人は苦笑いするか、「他には?」って聞いてくる。
でも、ぼくには歌うことしかない。だから、余計なことは言わない。
歌うことが好き。
ただ、それだけ。
***
生まれも育ちも東京。
都内の高校に通いながら、キャラランドっていう芸能事務所の練習生をやっている。
キャラランドは元々、マスコットキャラクターをマネジメントをする事務所らしいけど、今は新しくアイドル事業を始めようとしているところだ。
……まあ、俺がここにいる理由は単純。
「翔太くんって、本当に歌うまいよね!」
昔から、よくそう言われてきた。
学校の合唱コンクールでも、カラオケでも、親戚の集まりでも。
小さい頃から、マイクを渡されたら歌ったし、歌うことが本当に楽しかった。
でも、それ以上に大事なことがある。
歌っているときは、ぼくがぼくでいられる。
歌うことで、ぼくはぼく自身を証明できる。
だから——アイドルになろうと思った。
***
キャラランドに入ったきっかけ・・・
それは、ほんとに“ひょんなこと”だった。
高校の帰り道、駅近くの路地裏でスマホのカラオケアプリを使って歌っていたんだ。
別に誰かに聞かせるつもりじゃなくて、ただ、歌いたかっただけ。
そしたら——
「ちょっと待って!」
突然、目の前に現れたのが、稗田椿さん。
キャラランドの社長で、25歳の新米社長。
「君、いい声しているね! 事務所に遊びに来ない?」
最初は、変な勧誘かと思った。
でも、椿さんは本気だった。
「君みたいな人を探してたの! 歌が好きで、まっすぐで……絶対に輝けるよ!」
そう言われた瞬間、心がざわっとした。
ぼくは歌うことしかできない。
でも、誰かがそれを「いい」って言ってくれた。
だから——
「はい!……ぼく、たくさんの人のために歌いたいです!」
気づいたら、そう宣言していた。
***
それからは、あっという間だった。
学校終わりに事務所へ行って、レッスンを受けて、また歌って。
事務所には、雨野マネージャーや岡さんみたいな優しいスタッフさんもいるし、キャラランドのマスコットキャラクターたちも、ぼくのことを応援してくれている。
「翔太、俺たちの分までがんばれよ!」
「アイドルユニットとしてデビューになったら、俺とコラボしようぜ!」
と、鬼のマスコットキャラクターのぽこぺんさんが言った。
……いや、それはちょっと遠慮したいけど。
でも、ここに来て確信した。
ぼくは、心底、歌を歌うことが好きだ。
それは、絶対に変わらない。
だから——
「ぼくは佐藤翔太。アイドルユニットに参加して歌を歌いたいです!!」
胸を張って、そう言えるようになった。