ep.39 全力エール!立てなかった舞台。その向こうへ
最終オーディション途中経過発表の日。
キャラランドギルド567のコミュニティ内のボイスルームには、
誰からともなく「今日は、途中経過のライブ配信観る??」のボイスが入った。
そのボイスに反応したのは、今は、オーディションを見守る立場になったギルド567の仲間たち。
キャラランドギルド567——
同じ一次オーディションを競い合った絆が、最終オーディションの舞台に立つ20人を心から応援する力になっていた。
「誰が選ばれても、あの場所で戦っているのは全員、仲間だから」
その言葉が、何よりも強かった。
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◆「……やっぱ、スゲェな」
常磐孔雀は、最近、密かに始めた受験勉強の合間に、タブレットの配信を眺めていた。
最終オーディションに参加する20人の姿は、“覚悟”そのものだった。
(選ばれなかった俺たちが、しょげてる場合じゃないよな)
ボイルルームを開き、声を発する。
「俺らが応援しなきゃ誰がすんだよ、なぁ?」
そのボイスに、すぐにいくつものリアクションがついた。
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◆一方、織笠祈は、仕事の合間に、打ち合わせ後、
一人残ったミーティングルーム隅でスマホを開いていた。
スピーカーから漏れる音を極力抑えて、彼は画面越しの途中経過のライブ配信に目を凝らしていた。
指先が微かに震えていたのは、寒さのせいではない。
(先日まで、僕も立っていたあの場所で、今は彼らが全力で競い合っている)
悔しくないと言えば嘘になる。
でも、目を背けたくなるような眩しさに、自然と手を合わせたくなった。
彼は、小さな声でつぶやいた。
「まさに生きるという輝き…届いてくれ、この拍手」
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◆白輪友隆は、最近したばかりのチャンネルからゲーム配信をした後、自分が映る黒くなったディスプレー見つめていた。
「おれが今できること・・・」
ボイスルームに入室して、唐突に口を開いた。
・配信にコメント
・SNSで感想拡散
・7人が決まる日まで、この20人の競い合いを盛り上げる!
そうつぶやいた直後、
「ナイス!」というスタンプとともに、最初に反応してきたのは——
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◆掛川 仁亜だった。
「……ゆたかくん!、それいいアイディアっしょ!!」
思わず彼も自分の意見を口にした。。
「オーディション応募者でアイドルユニットとしてステージに立てるのは7人。
でも、心の中では567人全員が立ってる。
それを忘れないでくれって、願いを込めて。ぼくらも動こう!!」
文章の最後には、赤いスタンプで「キャラランドギルド567」タグが添えられた。
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◆日が暮れて、澤山伊織は
演劇部の次の講演のための台本に目を通しながら、ひとりで配信を見ていた。
彼は言葉にしないけど、あの日のことをずっと引きずっていた。
でも今夜は、ほんの少しだけ心が軽かった。
──仲間たちと、応援することを選んだから。
彼はそっと画面に向かって呟いた。
「幸運を、舞台にいるすべての仲間へ」
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最終オーディション途中経過発表の配信が終わる頃、
ギルド567のボイルルームには、数々の『ボイス』が飛び交った。
「悔しい」も「誇り」も、全部まとめて、
ギルド567で良かったって思える夜だった。
それに続いて、次々と発せられる一言ボイス。
「今日は泣いていいよな」
「……次、負けない」
「ありがとう。みんなでここまで来れてよかった」
「ステージの7人、支えるギルドでいようぜ」
そして、ひときわ目立つ一言が流れてきた。
「応援だけで終わると思ってないよな、俺たち」
──一瞬、チャットが止まる。
けれど、すぐに次のメッセージが重なっていく。
「続けよう。俺たちの“物語”も」
「このまま終わるつもりなんて、最初からなかった」
「ギルド567発の企画、キャラランドに提案しようぜ」
その言葉を、否定するメンバーは誰もいなかった。
その後、ボイスチャットでのやり取りは、徐々に熱を帯びていった。
選ばれる7人を含め、まだ誰も舞台には立っていない。
でも、20人だけじゃなく547人の物語は今も続いている。
ステージの光の先で――
まだ何も決まっていない未来を、ギルド567メンバーもまた本気で走りはじめていた。




