ep.32 選ばれた20名——最終オーディション、幕開けのとき!
静まり返る配信スタジオ。
モニターの照明がまだ落ちたまま、空気が張り詰めている。
そこへ、ゆっくりと光が差し込む。
「みんな……準備はいい?」
スポットライトの中心に現れたのは、キャラランドのマスコット——べにほっぺ。
いつものふんわりした声が、このときばかりは静かに、しかし力強く響きわたる。
「今日はは、とても重要なことを発表する日。
何百もの想いが、この瞬間、この配信スタジオに傾けられる——」
「ふぅ〜ん……いよいよ“彼ら20人”の名前を呼ぶときが来たにゃ!」
いたずらっぽい瞳をきらりと光らせるのは、三毛猫のマスコット、ガレットたん。
香るような低音で、どこか遠くを見つめる。
「どの子にも、それぞれにドラマがあった。
たとえ票に届かなかったとしても……あたしは、ちゃんと見てたにゃ。
だからこそ——今日、この瞬間、それぞれの物語の新しい扉が拓くにゃ」
べにほっぺがそっと頷く。
スクリーンの奥で、光がゆっくりと走る。
「それでは……キャラランド所属男性アイドルユニット、最終オーディション進出メンバーを——」
「——発表、しちゃおっか!」
ふたりの声が重なったその瞬間、
まばゆい光と共に、運命のリストが浮かび上がる——。
■1次審査 通過者 発表■
最終オーディション進出決定!
1位:琥珀 大河くん
2位:龍胆 尭人くん
3位:狭山 那音くん
4位:根古島 カノン(ねこじま かのん)くん
5位:瀬良 海月くん
6位:京極 真秀くん
7位:雲母 雲雀くん
8位:高峰 悠楽くん
9位:英賀田 雪雄くん
10位:戸崎 宇依くん
11位:榊 正宗くん
12位:姫野 悠惺くん
13位:日暮 尊く(ひぐれ みこと)ん
14位:曾禰 祈人くん
15位:柊 司くん
16位:Daz・Garciaくん
17位:カイリス・モンブランシェくん
——そして。
スクリーンの背景が、やわらかな金色に切り替わる。
「ここからは、“推薦枠”の発表にゃ」
ガレットたんが一歩前に出て、
ゆっくりと、胸のマーガレットのペンダントに触れた。
目を閉じ、息を吸い込む。
「赤河 辰煌くん」
「折原 千鶴くん」
「友利 ましろ(ともり ましろ)くん」
ひとつ、ひとつ、噛みしめるように。
「彼らの裏に、どれだけの応援があったか、あたし……ちゃんと知ってるにゃ...」
ガレットたんの声が、少しだけ震えたような気がして、
べにほっぺが隣でそっと手を添える。
そして、ふと客席へ向き直る。
「そして……今日、名前を呼ばれなかった子たちへ」
べにほっぺは、やさしく、そして凛とした声で語りかける。
「キャラランドに応募してくれて、本当にありがとう。
あなたたちが届けてくれた言葉、歌、表情、全部ぜんぶ、私たちの宝物です」
「きっと、また会える。だって——まだ、夢は終わってないからっ!」
その声が、スタジオ中に響き渡った瞬間。
ライトが全員の「物語の続き」を照らすように、明るく、あたたかく灯った。
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発表されたその瞬間。
オフィスや控室、自宅や移動中のカフェで——
それぞれのスマホが、一斉にその画面を映し出す。
「……ふむ」
LoHi参戦事務所・アポロプロの朝日社長は、スマホを見ながらコーヒーを一口。
「グローバル票が効いてる。Dazとカイリス、この並びは面白い」
「“推薦枠”って、そう来たか」
烏森芸能の烏森社長は車内から配信を視聴中。ハンドルにスマホを固定している。
高層ビルのオフィスで、スマホ越しに配信を眺めるのは江ノ島プロモーションの神代社長。
「ただの人気投票じゃない。キャラランドの“覚悟”が見えた気がするわ」
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そのころ、ある女性も画面に釘付けになっていた。
都内の静かなワンルーム。
会社帰りの服のまま、ソファに座り、スマホを握りしめているのは——
藤原真希(29)。
「…………よかった……!」
目に涙を浮かべながら、小さく拳を握りしめる。
画面には、自分が応援してきた“あの子”の名前が、たしかにあった。
「ここからが本番だよね……応援、もっと頑張らなきゃ」
言葉に出さなくても、指先は迷いなく投票ボタンを押していた。
彼女の応援が、確かにひとつの運命を動かしている——その実感だけが、胸に温かく残った。
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スタジオでは、べにほっぺが明るく締めくくる。
「というわけで! 最終オーディションは6月1日スタート〜!」
「推しを見つけたあなたは、今がチャンスなのですぅ!」
ガレットたんが前足を振って、マーガレットの香りをふわりと漂わせる。
スポットライトが舞台を包み込む。
キャラランド——
物語の“次の章”が、いま動き出した。




