ep.28 ガレットたんのいたずら日記vol.1
今回はキャラランドで活動中の三毛猫マスコットキャラクター・ガレットたんが主役のお話です。
ちょっぴりツンデレないたずらっ子。
いたずらしたあとは「しらんぷり」が基本。でも、マーガレットの香りと肉球のサインは隠せません。
社長室のソファが指定席で、書類の上でお昼寝しがち。
お気に入りは、帽子と台本と……ひみつの“推し”キャラ。
今日もふわっと香って、いたずら完了ですにゃ。
【香りのワナにようこそ】
朝、キャラランドの事務所にはまだ人影もまばら。
そんな中、誰よりも早く出社していたのは——もちろん、いたずら子猫のガレットたん。
朝の静けさを縫うように、ちょこちょこと肉球を鳴らして廊下を移動。
今週最初の“お楽しみ”を仕込むため、尻尾をぴんと立てながら、いたずら現場へ向かう。
ターゲットは、廊下のど真ん中。
ガレットたんは口にくわえた白い封筒を、そっと床に置く。
その中には、ふんわりとマーガレットの香りをまとった紙ふぶき。
しかけの中心に、自分の香りをすり込むように——
小さな前足で、ぽん、と軽く踏んだ。
「にゃふっ」
肉球からふわりと香るマーガレット。よし、完璧にゃ。
最初の犠牲者は——猫沢さんだった。
「おはよ……きゃっ!? わわっ、きゃああっ!!」
ふいに広がった紙ふぶきに足を取られ、バランスを崩す猫沢さん。
ふわり、ひらりと舞う花びらのような紙に包まれて、見事に転倒。
「もう〜〜〜! ガレットたんっ、またやったでしょ〜〜〜!!」
廊下に駆けつけたスタッフたちは、ぽかんとしたあと、ついに吹き出した。
その中に混ざって、誰よりも静かに登場したのは——椿社長。
手に抱えた書類の山に、紙ふぶきが降り積もっている。
「……私の資料が、紙ふぶきまみれです…ガレットたん…」
ひくっと眉をひそめる椿社長の声に、
周囲の笑いが一瞬止まり、空気が少しだけ張りつめる。
——えっ。
ガレットたんは、おすまし顔のまま、
そっと前足を上げて、毛づくろいを始める。
まるで何も見ていなかったかのように、知らんぷり。
でも次の瞬間、するりと椿社長の足元に回り込むと、
ちょこんと座って、そっと額をすりすり。
椿社長はため息まじりに、膝をかがめてその小さな頭をひと撫でした。
「まったく……次からは事務所じゃなく、オーディション会場でやってね」
その言葉に、ガレットたんの耳がぴくんと動く。
——公認、いただきましたにゃ。
【肉球の陰謀】
昼前のキャラランド。
誰もいない会議室の扉を、するりとくぐった影がひとつ。
机の上には、きれいに積まれたオーディション審査資料の山。
まるで“ここにどうぞ”とばかりに、ガレットたんを待ち受けている。
ガレットたんは、すん、と鼻を鳴らしながら机に飛び乗ると、
小さな体をくるんとひねって、審査資料の上へ。
「ふふふ……ターゲット決定にゃ」
一枚の書類の端に、そっと前足をのせる。
ふわりと白い花びら模様が浮かぶような、柔らかな肉球の跡。
そして、そこからほんのり漂うマーガレットの香り。
——ガレットたん印、完成にゃ。
書類を一枚ずつ、ていねいにチェックしながら、
「げきおし」「このこがデビューすべきです」と手書きのコメントを添え、
肉球でぺたり、とサイン代わりのスタンプを押していく。
いたずらであっても、香りと仕上がりには一切の妥協なし。
それが、ガレットたん流・プロのこだわりだった。
花の香りを残しながら、ガレットたんの“審査”は密かにそして勝手に終了した。
*
午後の会議。
資料の束を広げながら、スタッフたちは目を落とす。
「……あれ? この書類、手書きで“げきおし”って……?」
猫沢さんが眉をひそめる。
「“このこがデビューすべきです”って……これ、誰のコメント?」
岡マネージャーが目を丸くする。
パラパラとめくる資料すべてに、共通していたのは——
白い花びら模様と、ふわりと香るマーガレットの気配。
椿社長が、ふと息をついて呟いた。
「……全部、肉球判つきだね」
一瞬で静まる会議室。
空気がぴりりと張り詰める。
猫沢さんが椅子を引いて立ち上がる。
「ガレットたん、あなたね……?」
だがそのとき、ガレットたんはもう社長室のソファに。
前足を組んで、まるで王女のように優雅におすまししていた。
——知らんぷりモード、発動。
誰の問いにも応えず、ただ瞳を細めて、外の光を見つめている。
けれど、その横にはそっと置かれていた。
肉球印がたくさん押された、ある一人の応募者のプロフィール。
それは——
「これは、ひみつの応援スタイルですニャ」
声には出さず、だけどどこかニヤニヤと得意げに目を細めるガレットたんだった。
——ガレットたんのいたずらは続く——




