表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/52

ep.28 ガレットたんのいたずら日記vol.1

今回はキャラランドで活動中の三毛猫マスコットキャラクター・ガレットたんが主役のお話です。


ちょっぴりツンデレないたずらっ子。

いたずらしたあとは「しらんぷり」が基本。でも、マーガレットの香りと肉球のサインは隠せません。

社長室のソファが指定席で、書類の上でお昼寝しがち。

お気に入りは、帽子と台本と……ひみつの“推し”キャラ。

今日もふわっと香って、いたずら完了ですにゃ。



【香りのワナにようこそ】

朝、キャラランドの事務所にはまだ人影もまばら。

そんな中、誰よりも早く出社していたのは——もちろん、いたずら子猫のガレットたん。


朝の静けさを縫うように、ちょこちょこと肉球を鳴らして廊下を移動。

今週最初の“お楽しみ”を仕込むため、尻尾をぴんと立てながら、いたずら現場へ向かう。


ターゲットは、廊下のど真ん中。

ガレットたんは口にくわえた白い封筒を、そっと床に置く。

その中には、ふんわりとマーガレットの香りをまとった紙ふぶき。

しかけの中心に、自分の香りをすり込むように——

小さな前足で、ぽん、と軽く踏んだ。


「にゃふっ」

肉球からふわりと香るマーガレット。よし、完璧にゃ。


最初の犠牲者は——猫沢さんだった。


「おはよ……きゃっ!? わわっ、きゃああっ!!」


ふいに広がった紙ふぶきに足を取られ、バランスを崩す猫沢さん。

ふわり、ひらりと舞う花びらのような紙に包まれて、見事に転倒。


「もう〜〜〜! ガレットたんっ、またやったでしょ〜〜〜!!」


廊下に駆けつけたスタッフたちは、ぽかんとしたあと、ついに吹き出した。

その中に混ざって、誰よりも静かに登場したのは——椿社長。


手に抱えた書類の山に、紙ふぶきが降り積もっている。


「……私の資料が、紙ふぶきまみれです…ガレットたん…」


ひくっと眉をひそめる椿社長の声に、

周囲の笑いが一瞬止まり、空気が少しだけ張りつめる。


——えっ。


ガレットたんは、おすまし顔のまま、

そっと前足を上げて、毛づくろいを始める。

まるで何も見ていなかったかのように、知らんぷり。


でも次の瞬間、するりと椿社長の足元に回り込むと、

ちょこんと座って、そっと額をすりすり。


椿社長はため息まじりに、膝をかがめてその小さな頭をひと撫でした。


「まったく……次からは事務所じゃなく、オーディション会場でやってね」


その言葉に、ガレットたんの耳がぴくんと動く。


——公認、いただきましたにゃ。





【肉球の陰謀】


昼前のキャラランド。

誰もいない会議室の扉を、するりとくぐった影がひとつ。


机の上には、きれいに積まれたオーディション審査資料の山。

まるで“ここにどうぞ”とばかりに、ガレットたんを待ち受けている。


ガレットたんは、すん、と鼻を鳴らしながら机に飛び乗ると、

小さな体をくるんとひねって、審査資料の上へ。


「ふふふ……ターゲット決定にゃ」


一枚の書類の端に、そっと前足をのせる。

ふわりと白い花びら模様が浮かぶような、柔らかな肉球の跡。

そして、そこからほんのり漂うマーガレットの香り。


——ガレットたん印、完成にゃ。


書類を一枚ずつ、ていねいにチェックしながら、

「げきおし」「このこがデビューすべきです」と手書きのコメントを添え、

肉球でぺたり、とサイン代わりのスタンプを押していく。


いたずらであっても、香りと仕上がりには一切の妥協なし。

それが、ガレットたん流・プロのこだわりだった。


花の香りを残しながら、ガレットたんの“審査”は密かにそして勝手に終了した。



午後の会議。

資料の束を広げながら、スタッフたちは目を落とす。


「……あれ? この書類、手書きで“げきおし”って……?」

猫沢さんが眉をひそめる。


「“このこがデビューすべきです”って……これ、誰のコメント?」

岡マネージャーが目を丸くする。


パラパラとめくる資料すべてに、共通していたのは——

白い花びら模様と、ふわりと香るマーガレットの気配。


椿社長が、ふと息をついて呟いた。


「……全部、肉球判つきだね」


一瞬で静まる会議室。

空気がぴりりと張り詰める。


猫沢さんが椅子を引いて立ち上がる。

「ガレットたん、あなたね……?」


だがそのとき、ガレットたんはもう社長室のソファに。

前足を組んで、まるで王女のように優雅におすまししていた。


——知らんぷりモード、発動。


誰の問いにも応えず、ただ瞳を細めて、外の光を見つめている。

けれど、その横にはそっと置かれていた。

肉球印がたくさん押された、ある一人の応募者のプロフィール。


それは——


「これは、ひみつの応援スタイルですニャ」


声には出さず、だけどどこかニヤニヤと得意げに目を細めるガレットたんだった。




——ガレットたんのいたずらは続く——

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ