ep.24 誰にも追いつかれることのない偶像(アイドル)を目指して――BEN(ビー・イー・エヌ)始動――
東京・表参道。
BEN社の最上階にある社長室は、午後の光を受けて、静かな輝きを放っていた。
ライブのため一時帰国したJPは、その部屋のソファに座っていた。
姿勢はリラックスしているのに、目は鋭く冴えている。
重厚な社長用の椅子に座る女性──八手美和(46)は、BENを築いた、業界におけるカリスマ社長のひとり。
トップモデルとの仕事が多いからなのか、「代表」という肩書を感じさせない、洗練された落ち着きをまとっていた。
「アイドルリーグ『LoHi』に参加する新ユニット。JP、あなたに入ってほしいの」
開口一番、八手は切り出した。
JPは、返事をしない。
目を伏せると、軽く笑った。「……僕がアイドルユニット?なんか、しっくり来ないな」
八手はファイルを開いた。そこに描かれていたのは、
日本を飛び越え、世界に発信する、新しいアイドルユニットのコンセプトとビジョン。
「誰からも求められる存在。でも、決して手は届かない。
圧倒的に美しくて、完璧で、洗練されている……。
一言で言えば、“「異次元」そのもの”。それが私たちの目指す姿」
JPはファイルを覗き込まず、天井を見上げた。
「完璧って……それ、苦しいよ」
「だから、あなたなのよ。完璧を貫いている人、そして、ずっとその裏で努力を積み重ねてきた人。
みんなが求めるのは、表面にある“完璧さ”。でも私が見てるのは、あなたの“その裏にある努力”。」
JP──21歳。
17歳でデビューし、瞬く間にトレンドの中心に立った。
抜群の歌唱力と感情を乗せる表現力、そして誰もが真似したくなる独創的なダンス。
「踊ってみよー」動画では毎週のように新しいダンスが真似され、“次の一手”を誰よりも期待される存在。
「19歳でアメリカに拠点を移してから、僕は“流行”だけじゃ飽き足らず、“完璧”を追求してきた。
ただただ苦しいけど、それが、僕の“答え”だったんだと確信した。」
「その答え、ユニットとしてもう一段、高みを目指さない?」
八手の声に、熱が帯びる。
「完璧なんて、幻想。でもその幻想を“本物”にしたい。
それを一緒に作ってくれるなら、ぼくは、社長にすべてを委ねる」
「私があなたと一緒にその苦しい道を歩む。
いや、私とじゃなきゃ、あなたはその苦しい道のりは歩めない。」
JPはソファから立ち上がった。
窓の外には、かつて“夢を抱いて見ていた街”が広がっている。
「僕も一人では到達できない「完璧」を追求する。社長もちゃんとついてきてよ。」
その目の奥には、『覚悟』があった。
八手の表情が緩む。ゆっくりと立ち上がり、手を差し出した。
「じゃあ、一緒に歩み始めましょう。新しい光景の先へ」
BEN所属のLoHi参加の新ユニット、ついに始動。
中心には、天才シンガー ──JP。
けれど彼の新ユニットにかける『覚悟』を知る者は、八手社長の他に誰もいない。




