ep.23 キャラランドギルド―新たな物語のはじまり―
「――キャラランドが、567人の原石たちのために“場所”をつくる」
椿社長からそのアイディアがキャラランド社内で披露されたのは、一次審査締切の当日だった。
「大歓声のなかで『輝く』ことを目指す原石たちが、お互い切磋琢磨したり、一緒に何かを作ったり、お互い助け合う“場所”を、キャラランドがつくります」
それは、新たな希望であると同時に、まだ何も形のない“始まり”だった。
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キャラランド事務所のミーティングルームでは、その翌朝から早速その“集まる場所”の準備がはじまっていた。
ホワイトボードには、太字のペンで殴り書きされた仮称が目立つ。
『キャラランドギルド』
「……うちのボス、たまに本気でとんでもないこと言い出すニャン」
猫太Pが苦笑まじりに、ホワイトボードを見上げた。
「“ギルド”って、RPGとかの世界じゃないんですか?」
猫沢ゆうがペンを回しながら、疑問を口にする。
「まあ、“仲間が集まって助け合う場”って意味合いだと思うニャン。キャラランドらしくて、なんかいい名前ニャン」
猫太Pが頬杖をつきながら、ふわっと笑う。
「でも、“ギルドに参加したらデビューできます”って話ではないんですよね?」
猫沢が確認するように声を上げる。
「それは違う。夢を掴んでほしいっていうメッセージではあるけど、“ギルドに参加すれば夢が保証されるという訳ではない。あくまで、“同じアイドルを目指す人たちが集まれる場”だ」
雨野の声は真剣だった。
「それに、“キャラランドが育成します”っていう意味でもないですよね?」
猫沢が慎重に言葉を選ぶ。
「そう、 “同じアイドルを目指すみんなが切磋琢磨して、交流できる『場』があるっていうだけだニャン。
「だから『ギルド』」
転生猫太Pが補足する。
「育成機関じゃない。アカデミーでもない。でも、“出会い”や“気づき”がある。そんな場所にしたいって、ボスが言ってた」
「 “一緒に夢を目指す仲間・ライバルと出会える「場所」” ですね」
岡の言葉に、全員が静かにうなずいた。
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「さて……じゃあ、何から始めようか?」
雨野が立ち上がり、ホワイトボードの前へ。
「参加資格は『翔太くんとキャラランドGENSEKIオーディション応募者合わせて567人』。そして『アイドルデビューを目指す人』。」
「どんなことをするんですか?オンライン掲示板?定期オンラインミーティング?月一のオフ会?」
猫沢がメモに書き出していく。
「ギルドメンバーが自身がスキルや経験を持ち寄ったり、他のギルドメンバーと協力したりする仕組みにしたらどうでしょう?」
岡が提案する。
「それ面白いニャン!」
猫太Pが楽しげに相槌を打つ。
「ルールは最低限。上下関係もなし。年齢もこれまでのキャリアも関係なく、ただ“アイドルを目指す者同士”が集まれる場所」
雨野が黒板に【挑戦】【協力】【競争】そして【信頼】と【自由】と書き記した。
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「でもさ。正直、誰かから見たら“中途半端”って思われるかもしれませんね」
猫沢がつぶやく。
「“何をしてるかよくわからない集まり”とか、“結局なにを提供するの?”とか言われるかもしれません。」
「それでもいいんじゃないか?」
雨野が肩をすくめる。
「スタートが中途半端でも、不完全でも。
それでも1人でも必要としてくれる人がいるなら、意味がある。誰かの居る場所になれるなら、十分だ。」
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話し合いは数時間に及び、アイデアのメモが山のように積まれた。
だけどそれは“宿題の山”ではなく、“始まりの素材”だった。
「さあて、椿さんに話にいこう!」
雨野が時計を見ながら立ち上がる。
「キャラランドギルド、か……面白くなりそうニャン」
転生猫太Pが微笑む。
今回のキャラランドGENSEKIオーディション参加者が集まる場所…
「名前は、キャラランドギルド567はどうニャン」
「キャラランドギルド567・・・いいですね!!!」
「567人、それぞれの物語が、また少し動き出すんですね」
猫沢の言葉に、雨野も小さくうなずいた。
『キャラランドギルド567』
それは、キャラランドのあらたな物語のはじまり。




