ep.14 キャラランドの10本柱
キャラランド社長稗田椿社長が、アイドルリーグ「LoHi」参戦を表明した直ぐ後の話。
キャラランドの会議室は、今日も静まり返っていた。
「LoHi参戦もありますが、今月は地方のイベントがたくさん入っています。」
社長である稗田椿の声が響くが、スタッフたちの反応は薄い。10人しかいない小さな事務所。
これまでマスコットキャラクターのイベント出演で地道にやってきた仲間たち。
だが最近は、どこか空気が重い。
会議が終わっても、誰も雑談を交わさず、静かに席を立つ。
椿は心の中でつぶやく。
——みんな、何かを抱えてる。
休憩スペースでは、経理担当の大宮と古参のマネージャー猿田が話をしていた。
「正直さ、アイドルってどうなんでしょう?」
「椿社長の気持ちはわかるけど…やっぱりマスコットキャラクターとアイドルユニットでは勝手が違うよな」
と大宮がボソッとつぶやく・・・
誰かを否定するわけでもなく、ただ迷いを吐き出すような会話。
アルバイトの伊藤颯太が少し遠巻きに、そのやり取りを見ていた。
そんなある日、キャラランドのマスコットキャラクターが出演する地方のイベントでアクシデントが起こる。
場所は、地方の町おこしフェスティバル。
キャラランドのマスコットキャラクターたちは、小さな野外ステージでの出演が決まっていた。
本番直前——
急に空が曇り始め、突然の雨。
慌てる主催側、機材は濡れて音響が一時ストップ。
観客は傘を差してまばらになり始める。
マネージャー猫沢が焦りながら椿社長に駆け寄る。
「音響復旧に30分以上かかるそうです…!」
空気は最悪、観客の離脱も目前。
マネージャー陣もテンパり始める。
——そのとき。
古参マネージャーの猿田がステージ裏に立つ。
「ステージは無理でも、できることはある」
彼はマイクが使えないと判断すると、即座に練習生でアルバイトである佐藤翔太を呼び寄せた。
「すぐに会場の屋台を周ってください。声が届く範囲で結構ですので、チラシ配ってください。」
さらに他のスタッフに即席で雨対策用のテントを指示、
観客の避難先を作り、そこにスタッフ自ら動線を誘導。
翔太たちは、びしょ濡れになりながら屋台を回る。
「キャラランドです! よかったら、雨宿りしてってください!」
観客の一人が、「あんたら、ここまでやるんか」と驚き笑う。
雨が上がり始めた頃には、
テントに集まった客の間でちょっとした拍手が自然と湧く。
猿田は、マイクもライトもない中で人を動かす「現場力」を見せつけた。
それを見ていた他のスタッフは、静かに感嘆する。
イベント後、翔太がぽつりと呟く。
「猿田さん、ああいう対応…どうしてできるんですか」
「これまで何度も対応してきました。派手さはないですが、現場で培ったことは必ず生きます。」
翔太は、少し目を輝かせた。
数日後、全員が集まる定例会議。
椿は意を決して言った。
「今、キャラランドは変わろうとしている。でも、私はみんなが本音を言えない空気は変えたい」
沈黙の中、一人、大宮が口を開いた。
「正直、アイドル事業を始めることに最初は正直戸惑っていました。でも、先日のイベントで確認しました。私たちキャラランドが培ってきたやり方を、まだまだ活かせるって!」
猫太Pも続く。
「変わるのは怖いけど…キャラランドを続けたいのはみんな同じだよな」
椿は微笑み、「そう、私も。ここにいる10人でキャラランドなんだから」と返す。
それから、キャラランドは少しずつ変わり始めた。
アイドル事業に向けて、会議では役割を越えて意見が飛び交い、スタッフ同士の連携は強まっていく。
練習生もアルバイトも古参マネージャーも、互いを支え合いながら進んでいく。
キャラランドは、10人でひとつのユニット。
小さな事務所だからこそ、全員の力が必要なのだ。
そして、その歩みは確かに、新しい未来へと続いていた——。




