巨大爆撃機メディタリニアン
巨大爆撃機メディタリニアンは分厚い雲に姿を変え、標的の町へと秘密裏に接近する。午前には快晴だった空をたちまち覆い隠し、鋼鉄製の蒸気エンジンが家の壁を震わせたことに気がついても、そのころにはとっくに僕らは手遅れなのだ。町のうえをガラスの粉や電気ヘビが降り注いでいた。数百年単位で刻まれ遺った多くの暮らしの痕跡が、水蒸気になって立ち昇る真っ白な絶景が、遠くの町にも、町の人々の倒れる最期の景色にも一様に昇り龍を幻覚させた。
地中海南部に、頬にあるそばかすをそばかすと思わせない少年が暮らしていた。
「さーみなさん。僕のこのほっぺにあるの、なんだと思います?」
「え、なんだろう。ニキビじゃ、ないよな」「知ってるぜ。アイプチってやつだろ」「ばか、それを言うならチークだろうが」「ヘルペスだ!」
「さてさてどうでしょう。正解は……、そばかすでした。」
三拍ほど遅れて沸く本物の歓声が、この朝の港に滞留する潮のにおいよりも満ち満ちていた。一日に一度のこれだけで、少年が食べるだけのお菓子代には十分な稼ぎになった。
少年には唯一の家族である父親がいた。その父親の仕事は、これ見よがしに拍を崩すことで飯を食う類の音楽家だった。人気はそこそこ、決して収入も悪くなかった。新曲のMVがアップされると再生数がそれなりに伸びる。世界中の暗い学生が書いたコメントが、動画サイトサーバーの数百メガバイトを食っているのは、けっこう父に責任があった。
暖かい休日の昼。スプーンが皿の底をひっかいて、トマトの煮豆の口の音。その日は一日中快晴の予報がされていた。的中したまま雲は午後へと差し掛かった。