第8話「林萌香の憂鬱」
鷹山が駐屯所に戻ると、そこに金髪の女子が座って待っていた。まぁ苦労して街中を探しまわる事もなかった。思わず目を丸くする彼女だったが、自然とこう切り出せた。
「林萌香さん?」
「は、はいっ!」
萌香は味方である筈の警察が来たにも関わらずに緊張してしまって、返事をするやいなや狸になってしまった。
「うわっ!?」
思わずポカンと口をあげて唖然とする鷹山。彼女は手元に箒を出現させて警戒をしてみせた。
「す、すいません! ちょっと緊張しちゃって! でも、落ち着いたので今から人間になります!」
ドロン!
萌香は大急ぎで金髪の少女にもどった。
「どういうこと?」
鷹山は彼女の道具である箒を持ったままだ。
「あ~何から話したらいいのかな? あの、それよりお巡りさん、その箒は一体何なのです?」
「えっ? いやぁ~お掃除したい気分になってね! 私ってば綺麗好きなのよ!」
箒で交番前を掃く。萌香には見えないように手元へ収縮させてその箒を消した。そして交番のなかへ改めて入る。
「……って違うわ! いま狸になったじゃない!! 貴女!! 何者よ!?」
「……突然こんなところで光る箒を取り出したお巡りさんのほうが私は不思議」
「……て、手品よ。たまにクセでやりたくなるのよ。副職でやっているしぃ?」
「じゃそれって秘密だよね? バレたらヤバいヤツだよね?」
「ぐっ!」
魔女が狸に会話でのみこまれた。
「お互い秘密があるならば交渉をしようよ? 私はこの近くの喫茶店でヤクザに脅された。しかもその模様をその喫茶店の店員がスマホで録画までした。どちらさんも犯罪だと思うのだけど違う? 魔女のお巡りさんさ?」
「何故私が魔女だとわかった……!?」
「いや、どうみたって魔女のテンプレでしょ? 突然箒をパッとだすとかさ? というかアレですか? 魔女の宅急便が大好きで影響でも受けた人ですか?」
「違う! 私はもののけ姫派だ!」
「どうでもいいよ!! 私は脅迫され盗み撮りまでされたの!! 被害届だすから対応しろ!! 警察でしょうが!!」
「は、はい……」
「もうっ!!」
「でも貴女、これからどうするつもり?」
「どうするつもりって?」
「喫茶店には貴女を探しまわっているお兄さんが来ていたようじゃない? 彼が話すには家出をした貴女の捜索願を地元の警察にだしたとか? 私が今回の件で対応したとしたら、貴女は地元へ帰省するしかなくなるわよ?」
「ぐっ……お兄ちゃん……」
「わかった。貴女が不思議な化け狸であることは内緒にしてあげるわよ。今回のこの件は示談って事で事を済ませましょうよ。でも、貴女をとりまく環境は貴女自身で何とかしなきゃ。じゃあいきますか」
「どこに?」
「ドロップアウトに。バイトを辞めるにしても地元に帰らない事を言い張るにしても逃げてばかりじゃいけないでしょ。私もご一緒するから。どう?」
「お巡りさんは私の味方なの?」
「ん?」
「今話した事は本当にあった事。私の正直な気持ちを言えば、あのお店の女もヤクザも顔を合わせたくなんかない。それにお兄ちゃんなんて特に……」
「わかったわ。場合によっては私がこれから貴女の面倒をみてあげる。それでどう?」
2人は顔を見合わせた。
完全に双方納得した訳でないが萌香の「お願いします……」のひと言で2人の対話は終わった。そして一緒にドロップアウトへ向かう事となる――
丁度その時、ドロップアウトでは海斗とソラが対峙していた。
が、その形勢は明らかに海斗側。
「僕たちは萌香を帰らせて貰えればそれでいい。本当ならば妹を侮辱させた事を公的に訴えてやりたいけど、それをするかしないかは妹の気持ち次第ってことでいいですよ?」
「ごめんなさい……ただでさえ繁盛しそうにないから……」
「そりゃこんな殺風景な玄関でオシャレさが微塵もない喫茶店が繁盛することなんてないに決まっています。ヤクザが隠れ家に使うワケだ」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」
「もういいです。それよりコーヒーを一杯貰えますか? 喉乾いたよ。えっと、このアメリカーノで」
マシンガンのようにソラを問い詰めた海斗は席に座って、コーヒーを頼んだ。するとそれまで鼾をかいて寝ていた大地がスッと起きて反応した。
「あいよぉ! すぐに作るよい! イケメンのお兄ちゃん!」
思わぬ展開に身構えた海斗だったが、それは彼にとって本当に思わぬ展開そのものであった――
「おまちどうだよい!」
急激に快活になった大地が運んできたコーヒーを啜る。
「美味しい!! こんなに美味しいコーヒーは初めてだ!!!」
海斗はその言葉を大きく述べて大地の手をとる。
「僕をこの店で雇ってくれませんか!?」
「へ?」
海斗の頬は仄かに赤らんでいた。
「いや、何この展開?」
ソラは思わずそう口にした。
いや、本当に何なの? この展開は?
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪はい海斗くん、そっち系の男の子でした(笑)文の書き方的にアレコレ思う人もいると思うんですけど、ドロップアウトってこういう作品なんですよ。語り手も意味あるのよね。作者個人は優さんが結構面白い人だと思って書いています。また次号。お楽しみに☆☆☆彡