第19話「C‘mon baby America!!!」
萌香たちは帰国して新幹線に乗って広島へ向かう。
その道中で誰も口を開くことはなかった。
萌香が険しい顔を見せ続けている。
広島駅の新幹線口。そこに彼女は立っていた。
「ソラたん!」
「萌香……!」
「ワアアッ!」
萌香とソラは久しぶりの再会に抱き合う。
「杞憂だったようだい。安心してもいいよい」
「そうですね。色々重たく考えすぎちゃった」
賢太郎は大きく息を吐いて項垂れた。
帰れる場所に帰って来た。その安堵が全員にあった。
ドロップアウトのその翌週に店を再開した。
「旅行して遊んでいたぶん、アンタたちには働いて貰うよ!」
大地が普段休んでいるリクライニングチェアーに腰掛けてソラは雑誌を読んで寛ぎながらもスタッフに指示をだす。
「まるでお前が店長だい。そこは俺の席だい」
「つべこべ言うな。ヒゲモジャリンも遊び惚けてばかりで捕まって迷惑かけて」
「そ、その節は……申し訳なかったよい」
「萌香」
「何?」
「コレ」
ソラは彼女がつけていたネクタイを解いて萌香に手渡した。
「1番頑張ってくれているから、あげるよ」
「ソラたん……!」
「遠慮しないで。つけて」
ぎこちないながらも、萌香はそのネクタイをつける。
「似合うわよ♡」
「ありがとう!」
怠そうな表情を浮かべていた大地も賢太郎もその瞬間は微笑む。
「ほら! ぼさっとしない! 働け! 働け!」
誰もソラに対して渡米であった事を話そうとしない。
ソラから何も聞いてこないからだ。
萌香たちはアメリカのチンピラ集団に変な訴訟を起こされた。そんなチンピラ集団を萌香と杏奈が大地と賢太郎を救って倒した。
そういう話にしたのだ。
それでソラは納得してくれた。
彼ら彼女らが遊び惚けていたことには憤慨しながらも。
舞台はそこからまた変わる。
「そうか。ご苦労だった。でも妙だな」
「何がでしょう?」
「杏奈は何も憶えていないのか?」
「いや、ソラさんのお父さんと戦って魔人の組織を倒したことは……でも……」
杏奈は久しぶりに神泉組本拠地・花園ちはやの和室で千速と面していた。
「妙なことは海を渡っていないコッチでもあった」
「えっ」
「イブちゃんは海を渡る前の杏奈たちと同行した記憶がうっすらあるようだが、どうも何もなかったと話していて」
「何もなかったとは?」
「話を思いだしてみな。元々はどんな出来事で今回の事に至った?」
「店長が誘拐されて……それを救いに。いや、でも、それはソラさんのお父さんたちの策略で……」
「違う違う。飛行機に乗るまえにそのお父さんの仲間と会ったって話がどこかに飛んでしまっている」
「ワホホさんの仲間? レジーさんやカレンさんじゃなくて?」
千速は顎に手を当てて思考を巡らせる。
どうも一人の人間が存在そのものを消されている。
いや、敵の魔人集団をそうさせたと話しているのだ。その真実を杏奈が何にも知らないというのは何か変なのだ。
「市長だった男は始末されたのだな?」
「ええ。エンジェルス・マンが雇った始末屋によってです。バロウズという男」
「その男はもうこの現実に生まれた事実すらも消されたということで……なぁ、杏奈、杏奈はディスマンって知っているか?」
「ディスマン……ネットか何かで見たことはあります」
「世界中の人の夢のなかに現れる男。結局は誰かの作り話だって言われてもいる」
「そう言われてみれば、エンジェルス・マンにそんなメンバーがいたような気も。いや、でも、記憶にないですね。私たちはアメリカに渡って間もなくソラさんのお父さんと出会いました。そこに同じ黒人弁護士のリアムさんもいて……あれ?」
「まぁ、あれこれ詮索しても仕方ない。アタシが聞きたいことは1つだ」
「はい」
「アメリカに渡って彼女たちと共に過ごし、共に戦って何を感じた?」
「言いづらいことですけど……」
「いいよ。言ってごらんなさい」
「仲間だって思っちゃいました」
「そうか。じゃあやる事は1つ」
「やる事?」
千速は指をパチンと鳴らす。
襖が開いてソレが姿を現す。
「これは!?」
杏奈は目を丸くするばかり。
ドロップアウトが開店して1週間経つ。このまま萌香達の渡米した話はどこか遠い昔話になってしまった気がする。そんな中でアメリカから一通の手紙が届く。それはいつかの訴訟がどうこうというものではない。動画を送って欲しいと願うものだった。
「えっ!? ニューメキシコ州の州知事!?」
「ああ。レジーのオッサンね」
「おまえ、馴れ馴れしいよい」
「内容は何でもいいみたいですね。私たちの店の宣伝をタイムズスクエアで放送するっていうものみたいです」
「へぇ~夢みたいですね。どうしよう? 踊ります?」
「それじゃ店の宣伝にならないでしょ」
「でも、私や杏奈は英語を喋れないしさ。踊るのでもよくない?」
「ダンスは言葉の壁も超えるよい」
「いや、お前が言うとキモイわい」
「でも、分かり易いのは確かです」
「じゃあ、踊ろうか!」
「えっ? 決定なの?」
「ソラたんセンターで」
広島の横川にあるカフェ・ドロップアウトはニューメキシコ州のタピア州知事からのリクエストの計らいを受けて宣伝ビデオを製作した。
それはレジーの手元に届くなり、すぐに全米でコマーシャルの1つとして拡散される。
『トム。リチャード。見えるか? 日本で育ったお前さんの娘だぞ?』
レジーはタブレットに映るソラたち、ドロップアウトの踊ってみた動画をトムの墓前に向ける。傍には無きリチャードの後継者であるリアムも立っていた。
『きっと届くことでしょう。歓んでもいる姿が目に浮かびます』
『ふっ、うまいことを言うぜ。リチャードじゃねぇのになぁ』
その動画はクラブ・イディオムでも流れる。
正式に夫婦となったトッドとセラがお酒を片手に眺めて語り合う。
『何だろう? どこかで彼女たちと出会った気がするわ』
『奇遇だな。俺も端っこにいる男と出会った記憶が少しある。日本のファンかもしれないね。お互い日本が大好きだし』
『じゃあ一緒に日本に行かない?』
『今からか?』
『シーズンが始まったら忙しいでしょ』
『ゆっくりしたい気もするけどなぁ』
『この国は自由よ。音楽と同じでね。旅行したいときは旅行するのよ』
『セラらしいよ。じゃあ、このドロップアウトって店に寄らなきゃな』
彼らの後ろでカレンもその映像を感慨深くみる。
『アレがトムの娘さん。カッコいいわね』
思わず口元が緩んでしまうのも仕方ないことだ。
アフタヌーンティーでも店主のクリスチャンが腕を組んで見守る。
そしてタイムズスクエア。その液晶画面。
眺めるのは魔人でなくなり、記憶もなくした男。
彼は乗りまわすスケボーを止めて元気に踊るカフェ店員を見つめる。
いつも気にせず通り過ぎる景色で彼がその足を止めるのは珍しい。
『ウチも真似すりゃいいかもしれねぇなぁ』
彼はポケットから取りだしたコーヒーを取りだして一飲み。何か思いだしそうだが、思いださなくてもいい気がする。
動画をみとどけた彼はニューヨークの街をスケボーで颯爽と駆け抜けてゆく――
(*´Å`)メリークリスマス♡♡♡
はい。如何にもココで終わりだと思われそうですが(笑)30分後に本章の最終回が公開されます(笑)
最後までお付き合いを宜しくお願いしますm(*´Å`*)m




