第7話「The monster plays in U.S.A.」
アメリカ屈指の巨大空港JFKに萌香と杏奈は降り立つ。
「ここが自由の国……!」
萌香は目をこれまでになく輝かせて周囲をキョロキョロ見渡す。
「オ~ディスマン、ウェアウィ~ン、アンバー? ジョージアサマ?」
『…………』
英語が全く通じない2人を前にリチャードは溜息をついて「神様……」とただ項垂れるばかり。
「ウィルハドコヨ?」
『……………………』
せめて自分のことをディスマンと呼ぶのをやめて欲しい。
『リチャード!! メアリーをつれてきたか!?』
ホテルに向かおうとしていたところで仲間と合流する。
恰幅のいい黒人男性がリチャードの近くに寄って来て話しかけてきた。
「ん? 誰よ? この黒人のオッサン?」
『私たちのボス。トム・ワトソンだ。まぁ……英語で言っても分からないか』
『メアリーはいないのだな?』
『すいません。あんな小手先の小芝居なんかで彼女はここまで来ませんよ』
『このコたちは何だ? メアリーの仲間か?』
『ええ……例の店の。ダイチたちと会わせます?』
「おい、オッサン。名乗れ」
「ワ、ワッチュアネーム? コクジンノオッサン」
『ト~ム・ワ~ト~ソン!』
「ボォン・ワホホ?」
「ボーン・ワホホさんですね? ありがとうございます! えっと、マイネーム・イズ・アンナリーゼ・ハヅキ! シー・イズ・モエカ・クレイジーオタヌキ!」
「一言余計だよ。テメェ」
色々問題はあったが、トムに案内されるままニューヨーク市内のホテルに着く。そのフロントでホテルマンと会話している日本人の男がいた。それは久しぶりにみる顏だった。
「賢太郎!?」
「萌香さん?」
アメリカで拘束されている筈の賢太郎がラフな格好でそこに立っている。
「アンタ、捕まっていたんじゃあないのぉ!?」
「いや、何でここに? 僕は何も聞いてないよ? グハッ!?」
萌香の強烈のパンチが賢太郎の腹部に直撃する。
間もなく彼はKOされた。
『とんでもないサムライガールだな! はっはっは!』
トムはそんな萌香たちと賢太郎の再会を大笑いしながら見守る。
『ボス、メアリーは来ておりません。これではどうにもならないですよ』
『ああ、そうだな。でも、ケンタローが英語を話せる。ダイチも話せる。彼らは私たちが思う以上に“強い”ようだ。それでいいじゃないか?』
『それでボスはいいのですか……?』
『ああ、彼女がこんないい仲間たちに囲まれているのならば。それが知れただけ満足さ。明日にはチームで合流しよう。レジーとカレンも来ているな?』
『はい……明日にはニューヨークに到着すると連絡がありましたが……』
目を細めて萌香たちを見つめるトムにそんな彼を不安げに見るリチャード。
彼らがソラを欲しているのは様々な理由が重なっていた――
賢太郎が意識を取り戻し、彼は彼が泊まるホテルの一室で萌香たちに説明する。
「えぇ!? あのオッサンがソラのパパァ!?」
「しっ! 大声はまずいですよ。あ、いや、いいのか。日本語だし。いやいや、よくない。よくない。ここの一室は彼らの秘密組織の為にあります。目立った事しちゃうとまずいですよ」
「いや、スケボーとかお洋服とか買いまくりすぎていません? 賢太郎さん?」
「杏奈さんだって何ですか? そのバッグいっぱいに入っている物は?」
「ここのホテルに来るまで杏奈が買いまくるのよ! お蔭様で時間が掛かってさ!」
「いや、萌香さんのほうが買い物していますよね? 明らかに寄り道しまくっていましたよね? 私よりもバッグの中身がパンパンですよね? というか新しいバッグまで購入してパンパンにされていますよ? 私もその気になりますよね?」
「それより賢太郎、ヒゲモジャリンは?」
「チョット、話を変えないで下さいよ?」
「スケボーパークで遊んでいたのですが、遊び足らないとかで残られましてね。僕はこの国が日本よりも治安が悪いと聞いているので買い物してバーで飲むだけ飲んで帰って来たところです」
「遊びすぎだろ。テメェらよ」
「萌香さんも大概ですけど?」
「それはそうと、あのロープで縛られた写真は何なの? ソラたんを呼び寄せる為にとは言え悪趣味すぎない?」
「いや……トムさんのご提案で。彼も組織活動がある中でソラさんとは向き合う時間がなかったみたいで。ソラさんがそもそも店長をされていると思われていたみたいでして」
「ある意味そうだけどな。で?」
「このアメリカでとんでもない計画が進行していると言うのですよ」
「は?」
「その……魔獣がどうとか? すごいバケモノを召喚する計画をトムさんたちと別の超能力者組織が手を組み阻止しようとしているとか」
「それでソラさんを……」
「ええ。ですが、物心つく前から彼女を見捨てているようなお父様です。彼女がその気になり、アメリカに来ても果たして親子水入らずになるかどうか。彼女が此処にやってこなければ、帰国させて貰えると昨日話したところでした。ははは。なんせこの仕事を請け負ってくれたら、何十億とくれると言ってくれて。それでニューヨーク生活も満喫させて貰っていますし。ははは。うふふ。ぶがっ!?」
萌香の強烈なパンチが再び賢太郎の腹部を襲う。
杏奈は溜息をついて思った事をそのまま吐いた。
「ロクなお父様でないですね。私の父もロクな父でないのでしょうけど。それで? 萌香さんはどうなされますか?」
「日本に帰る。コイツとヒゲモジャリンを連れて。ここにはもう用なんてない。ソラたんにはワホホのことも言わない。これは私たちが絡むべき喧嘩じゃない」
「…………そうですね。萌香さんが言われるならば。そうでしょうね」
萌香たちは一旦そう結論づけた。
その頃もなお大地はロッキー・スケートパークで遊び続けていた。
『よぉ。調子はどうだい?』
「ん?」
声がしたので振り向く。
そこにいるのは白人の青年だ。
『スケボーで遊び過ぎて酔うことってあるだろう?』
そう言って彼は目を蒼く光らせる。
周りを見渡す。
そこは異様な空間。ストライプだらけの超次元。
「これは!?」
黒い模様が矢印の槍となって大地を襲う。何とか避けてみせるが、気がつけばグルグルにその身を闇に巻かれた。
「イアッ! イアッ!」
青年は少し微笑む。
『馬鹿な奴らだ』
懐から缶コーヒーを取りだしてグビグビと飲む。
『この国は俺が生まれても死んでも何も変わらないよ』
彼もまた宿命を担いし怪物だった――
やっと本当の意味でアメリカ編に入りました!「○○○」が日本語で『○○○』が英語の会話って事にしています。いやぁ~でも楽しかったですね(笑)買い物しすぎのくだり(笑)
公認キャラもこれからドンドンでてきますよ!たのしみに!




