第28話「突然カフェに髭がボーボボのホームレスが入ってきたら戸惑っちゃうよね」
鷹山優はその日、自身の生い立ちを知った。
いや、元々は知っていた。
だから思いだしたと言った方が正解なのではないだろうか……
夕日に染まるベンチに座り、オレンジ色の景色を眺めながら煙草を吹かす。
どうしようって事もない。神泉組の魔女として生きる自分と表で警察官として生きる自分。悩ましいのはどうも悩みの種が増えてしまった事だろう。
「しゃあない。いってみるか」
吸っていた煙草をクルリと指でまわすと彼女はそれを消した。
魔女である彼女にとって、それは容易いこと。
「ん」
そこで彼女は何か視線を感じた。悪意のあるものでない。だけど何だか気味が悪いと感じるもの。彼女はとっさに構えたが意味をなさないようだ。
鷹山はその足でドロップアウトに向かった。
この頃になってドロップアウトは毎晩店を開いている。
千速をはじめとする神泉組の面々が連日通い詰めているからか、羽振りが良くなっているのだろう。
「カスミタン!! イッキいきま~す!!!」
やっぱりいた。
彼女は千速が今日もこの店で騒いでいるのをみて安心した。彼女の横には当然のように山崎もいる。
「いらっしゃい。今日はお仕事がえり?」
黒人の超能力者のソラが気さくに尋ねてくる。
「いや、警察の仕事は休みだったわ。そこの2人も」
「あぁ~じゃあ裏の仕事がえりかしら?」
「裏の仕事がえりって聞こえが悪いわね」
「注文はいつもの?」
「ええ。よろしく」
オーダーが「いつもの」で通じ合うから、鷹山もすっかりこの店の常連である。ただ常連だからこそ気になってしまう事がある。
「萌香のお兄ちゃんって今日はいないの?」
「そうね。確か地元に帰ったと聞いたわよ」
「そっか……」
コーヒーが手元にきたタイミングでソラに聞いてみた。彼はあのときに敵将を鷹山の魔法攻撃から護ったのだ。どうもそれが大事に思えて仕方がない。とくに千速は海斗にゾッコンだった筈だ。あの勢いならば、彼のことを四国まで追ってゆきかねないもので……
それがぽんっと萌香へ鞍替えしているのだ。
これまで同性愛に目覚める感じもまるっきりなかったアラフィフが。
「いい加減にしろぉ!!! テメェ!!!」
「ブゲバラァッ!?」
萌香のアッパーが千速の顎を直撃する!
すかさず山崎がバズーカをとりだして萌香に向ける。
「モエカッチョ、心の友であるとは言え、許せることと許せないことがあるよ?」
「私だって許せる事と許せない事があるわ!! ここは居酒屋じゃねぇんだ!!」
山崎の目は蒼く光り、萌香の目は紅くぎらついている。
「やめな! 2人とも!!」
鷹山が思わず席を立ったタイミングでカランコロンと玄関の音が。
「いらっしゃいませ?」
ソラは思わず苦い声でその男に声をかける。
男はみすぼらしいナリで髭をモッサリと生やしていた。その手にはチューハイがあり、どうみたってホームレスのソレにしかみえない。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
乱闘になりかけていた3人は男に視線を集める。
男は何も言わずに店をでていった。
「何だい? 何だい? 何が起きたよい?」
「うわっ! またホームレスが現れた!!」
「ホームレスじゃあないよい。店長だよい」
店の奥から大地が現れる。こうしてみると彼はまだ清潔なほうだ。
「浮浪者が入って来たわ。それで何もせずにでていった」
「何だい? そりゃあ。おっぱらって正解だよい。あれ? オバサン、たおれているじゃねぇかよい」
「モエカッチョがアッパーを喰らわせました。弁償をしやがれ。この店にこびりつくホームレスが」
「店長だよいって言っているよい! 萌香をどうにかしたいなら、勝手にどうぞだよい!」
「髭モジャリン酷い! 私は何も悪くないのに!! ウワアアアアン!!!」
いや、なんていうカオスだ。
こういうところならああいう浮浪者が思わず入ってくるのも無理はない。
待て。そういえばあの男が放つ視線はどこかで感じた覚えがある。
それも遠くない過去だ。
「まさか。あのときの? いや気持ち悪いのだけど? マジで気持ち悪すぎるのだけどぉ!! マジでキモイイイイイイイイイイイイイイイイイイィイイイイイィィィィイイイイィィィィイイイイイィィィィイイイイイイィィィィイイイイィィイイィィイイイイイイィィィィイイイイイィイイイィイイイ!!!」
鷹山の壮絶な絶叫。
「ん? 優ちゃん、何かいいことあった?」
でも、気絶した千速が穏やかに目覚めるほどだった――
∀・)ここまでちゃんと読み切っている読者様はあのホームレスが誰なのか分かると思う。次号。




