第33話「拳と拳をぶつけあわなくても拳と拳をぶつけあった事があるようなマブダチになれる事もある」
今日は待ちに待ったドロップアウト開店の日。
林萌香は背伸びをして目を覚ます――
ソラと大地は開店前から話しこんでいた。
「貴方が只者じゃないのはずっと前から知っているつもりよ?」
「俺の事は何も言えないよい」
「勿論、今ここで貴方の正体を暴こうなんて考えていない。だけど、ここ最近は妙なヤクザ以上に厄介な連中が店の常連になろうとしているじゃない」
「俺は何も気にしていないよい」
「萌香が入って来てから何かが起きているわ。私は彼女の事が大好きだから彼女に対して何も不安じゃないし、何も不満なんてないけど……こないだ私がかつて所属していた組織のボスがやってきたの。また今日もやってくるような予感がするわ。ねぇ、そこに魔女の連中まで集まってくるようになって貴方は何も思わないの?」
「商売繁盛で助かるよい」
ソラは溜息をつく。
いや、大地だってこのドロップアウトを舞台に何か異様な事態が発生している事をわかっている筈だ。だから遅刻することなく朝一番で支度に入っている。
決められた時間に萌香そして海斗がやってくる。海斗は店に来るなり、大地の元へ駆け寄って「頑張ります!」と気持ち悪いぐらいに照れながらアピールしまくる。やはり今日という日も何かありそうな予感が。
開店より間もなく一人の客が現れる。
「コーヒーを砂糖チョットで。トーストもお願いできるかしら?」
「おぉ、大串さん、お店に来てくれたのね!!」
「誰が大串だよ! 私を忘れたか! 家出狸が!」
大串……いや違う。やはりやって来た。魔女の一団の一人が。ソラは構えた。万が一の時は萌香を逃がして自身が戦おうと。でも、コイツの名前って何だっけ? と思わず口にでてしまいそうだった。
「私がここでモーニングを済ませたら外へでなさい。貴女に話しがある」
「えぇ~今日はやめてよ! 大串さん! 引っ越し屋の事は忘れて今日はうんとウェイトレスをやりたいの!」
「だから大串じゃねぇって言っているだろうが! 誰だよ! 大串って! いい加減にしないと私が本当に大串って奴だと読者が思うだろうが! 鷹山だ!」
なんか……だんだん本当に引っ越し屋の上司である大串に見えてきた……
そこへもう一人の客がやってくる。
小柄にして大太りの青年。彼は入店するなり、甘めのミルクティーをたのんで、それから何杯も飲む。何杯も。しかもボリュームのあるメニューをおかわりする。明らかに只者ではない。もう、この展開的に何かしらの超人である事はソラからしてみれば分かり切った事だ。ただ彼の正体は想いもよらぬところで判明した。
「御馳走になりました!! 自分、日本超能力者機構のCEAの小泉一基と申します!! ボスの五十嵐拳志郎さんと牧野絵里さんにメッチャ美味かったと報告します!!」
『バカヤロオオオオオォォォ!!! 自分で名乗るなぁぁぁ!!!』
『牧野はその度胸を讃えます』
彼の後ろポケットからはみ出ている無線機から五十嵐と牧野の声が聴こえた。
いや、コイツ、だいぶ馬鹿だろう。
「あれ? 萌香は?」
気づいたら萌香と魔女の姿が消えていた。
急いで外にでると、2人が店前でピリつく感じの雰囲気で向き合っていた。
「ウチの大将をぶん殴ってくれたらしいじゃない? 狸ギャルさん」
「あぁ~大串さんって魔女だったっけ? でも、あのオバンとボクシングしたのはあのオバンが吹っ掛けてきた喧嘩だからだよ! 自業自得でしょうが!」
「どんな理由があってもね、あの人は私たちの大将なの。恥を晒された以上は報復するのも当然だよ。それなりに痛い目をみてもらう!!」
鷹山は粒子を集めて箒を手に持つ。そして魔法を繰り出そうとした――
「あ~タンマタンマ! たまたまじゃないよ! タンマタンマね!」
「えっ?」
鷹山は聞き覚えのある声がしたので振り向く。そこに立っていたのはラフな格好した千速香澄と山崎生吹。
「こないだの件は水に流す事にしたよ。そのコと私で協定を結んだ。そうなった以上は敵対関係じゃない。恋愛成就の為の同盟だ。変な真似はよしな。優ちゃん」
「香澄さん……」
「私は局長の付き添いをお願いされたので、今日はうんと伴侶にまた一歩近づきましたよ? ざまぁねぇな。副長」
「山崎……」
「それに優ちゃんじゃあ、そのコには勝てない。アタシの言う事が信じられないなら、しばらく神泉組としての活動休止を命ずる」
「!?」
「ババァ、来るのが遅いよ。大串さんと喧嘩するところだったでしょうが」
「あっはっは、優ちゃん。まずは名前を覚えてもらうところからだなぁ!」
千速に肩をポンポンと叩かれた鷹山は呆然とした。
笑顔で会話を交わしながら店の中に入ってゆく千速たちと萌香。
自分は何か勘違いしていたのか?
でも不思議と悔しさはない。自然と彼女は微笑んでいた。
そして煙草を1本取り出して一服。
綺麗な青空を流れゆく大きな白い雲。
「私もたまには平和に慣れないといけないな」
試しに立ちあってみて分かったのは確かだ。
千速のいうとおり、彼女とやりあっても負けていた。
でも、この林萌香という蛮狸は警戒すべき存在じゃない。
彼女とどうやって親しくなったらいいのか?
いつの間にかソレを考えさせられる自分になっている。
口元が緩むのも仕方ないか――
ずっと緊張した面持ちで鷹山を睨んでいたソラも優しい顏になって店のなかへ入っていた――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪これにてドロップアウトの第1章「林萌香の生きる道」は終わりでございます。4月1日の連載開始からプロットどおりにとは想いつつも、とにかく楽しく書いてゆく事を意識してやってきました。来週から2章に入ります。1章よりさらに楽しいお話にできるよう、励みたいと思います。神泉組副長は鷹山優さんです。高山由宇さんじゃないよ。大串さんでもないよ。よろしゅうです☆☆☆彡