第26話「問題児は問題児をどうするかより問題児とどう向き合うかを教えてくれる」
神泉組の桂乙女と悠月杏奈は幼稚園のボランティアを終えて原田ジムへ向かう。彼女達はこのジムで戦闘の特訓も兼ねてトレーニングに励んでいた。
しかしジムに入るやいなやジム内が騒々しい。
「どうなされたのです?」
「いや、なんか千速さんがどこかの金髪の女の子と試合をしたのだけどね、突然狸が現れてアッパーパンチを繰りだして」
「それで今倒れていると?」
「うん。だけど、それ以上に問題があって」
「何の?」
ジムのトレーナーが倒れている千速の下半身を指さす。
「やだ。はしたないですわ」
思わず桂がそう反応する。
「終わった……もうこのジムには来られない……」
千速に意識はあるようだ。でもそれ以上にメンタルにダメージが残った。
殺伐とした雰囲気が漂う海斗のマイホーム。
『魔女に目をつけられたのか?』
海斗は父と電話を交わす。
「うん、でも、どうやら萌香をそもそも狙っていたみたいで」
『いや、話を聞く限りお前を狙っているようにしか思えないのだけど?』
「萌香が倒してくれたから何とかなった。帰るなら今のうちがいいと思うけど、父さんはどう思う?」
『……………………』
風太は一足早く愛媛に帰っていた。萌香の暴走に続き兄の海斗もそのアイデンティティから問題を起こしてしまうかもしれないと踏んだ彼は海斗の様子を注意深くみるようにした。思っていたとおり海斗は「気になる人ができた」と電話で語りだしたので学校生活に戻るよう怒鳴ってしかりつけた。海斗はそれでいい。それでいう事をきいてくれる。
しかし萌香は違う。
彼女の行動はいくら彼が怒っても変わらないのだ。
広島にも重道をはじめとした蛮狸の同胞はいる。
万が一の事があっても彼らが何とかしてくれるだろう。
彼らの力で萌香を地元に帰してくれるかもしれない。
そう楽観的に考えていた。
だが、どうにも彼らは萌香の意思を尊重してしまっているらしい。
そして魔女やら何やらと揉め事を起こそうとしているのだ。
『すまん。しばらく休学のまま引き続き萌香の傍にいてやってくれ』
「えぇ!?」
『実はこないだちゃっかり父さんも広島に行ってだな。そのお前が働いている店とやらに寄ったのだよ。店はやってなかったけどもな。そこの髭面のオッサンと少し話をした。どうやらお前と同じくホモはホモらしい。だけどまだ心の準備ができてないらしくて。最近入店した若い男の子を気に入っていると言うからなぁ、多分お前の事だ』
「マジで!! 大地さん!! やっぱり僕の事を!!」
海斗はめちゃくちゃ嬉しそうだ。風太は苦笑いをしつつも話を続ける。
『だから、まぁ、人間と狸じゃあ異性でも同性でも結ばれないものだが、お前も少しは報われるかもしれない。だけど俺からのお願いも聞け。萌香を暫く見守り続けろ。1年の休学期間を取ったと言ったな? その1年間で萌香が何か問題を起こさないか見張れ。いよいよまずい時は俺がまた広島にゆく』
「わかった!! ありがとう!! 父さん!!」
久々に息子と気持ちの良い会話を交わした気がした。
彼が同性愛者だと分かってから、それをこうして受け入れるまで苦労したものだった。そのキッカケを萌香がくれたと言えば聞こえはいい気がするが。
「どうかお前も見守ってやってくれ」
仏壇にある芳香の遺影に手を合わせる。
ガラガラと店の玄関が開く音。
「らっしゃい!」
今日も風太は店を開く。
しかし今日は1人目の客から珍客だ。
「よう。とっつぁん、飯を頼むまえに少し話していいか?」
「トンキチか」
舞台は愛媛。その地でも何かが起きようとしていたーー
∀・)今回のサブタイトルは我ながら核心を突いている。次号。