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DROP OUT~C'MON BABY AMERICA~  作者: いでっち51号
~林萌香の生きる道~
26/72

第25話「宮本武蔵と佐々木小次郎の一騎打ちって宮本武蔵がせこい事をしたって誰もそんなに咎めないよね?」

「彼女だと……?」

「か、か、か、彼女です!」

「まぁ~そういうことに今はしておく。オバサンが今やっている事はあからさまな嫌がらせだよ? どのみちこの男とは結ばれない。諦めて婚活なり合コンなり行ってくるといい。じゃあね! 帰ろう! お兄ちゃん!」

()()()()()って……」



 海斗がそう言った際に「待った!!」と千速の大声が彼女に背を向けた2人を突き刺す。彼女の執念はどうにも収まりそうになかった。



「こんな納得のいかないオチで引き下がれるかぁ! そこのメスギャル! 私と海斗君を懸けて勝負しろ!!!」

「はぁ?」

「ここの近くにボクシングジムがある! 原田ジムだ! 1時間後に来い!! そこで私をぶっ倒したら兄ちゃんの事を諦めてやる!!!」

「何を一方的に話しているの?」

「萌香がお兄ちゃんって話すからだ……うわっ……」



 海斗が萌香に説教をしようとしたところ、彼の周りに白い粒子が渦なり、彼を包みこんで捕縛した。そのまま木の棒を持つ千速のところに引き寄せられる。



「オバサン……魔女か……それもろくでもないヤツだね?」

「嘘をつく奴よりマシよ! 彼女? アンタはこのコの妹でしょうが!!」

「おい! なんだこりゃあ!? 萌香! 助けてくれよ!」

「原田ジムに1時間後だ! わかったな! 必ず来いよ?」



 彼女と彼女に宙を浮かされた海斗はその足元に突然出現した魔法陣のなかへとズズズ……ズズズ……と消えていった。



「はぁ。このままほっといてもいいけど、大事になればパパなんかが絡んでくるだろうからなぁ。しっかし、何で決闘に拘るのかね? あのオバサン」





 萌香は溜息をつきながら空を仰ぐ。



 ポツポツと曇り空から粉雪が降ってきた。




 原田ジムには常連の客がトレーニングをしていた。



「おぉ、千速さん、こんな平日に珍しいね。横のコは?」

「新しい彼氏! 可愛いコでしょ?」

「なんか彼、顔色悪そうだけども?」

「勝手に拉致られて連行されています……グッ!?」



 口が視えない何かで塞がれる。体もそうだが、彼女は魔女で魔法を使っているようだ。萌香は何かを知っていそうだったが、この金縛りを解く方法が何かしらあるのだろうか?



「うおぉ!! うらぁ!!」



 千速が早々と着替えてサンドバッグ相手に猛烈な殴打を振る舞う。



 いや、テニスや海水浴が趣味じゃないのかい。



 海斗はツッコみたくて仕方なかったが、閉ざされた口が開けない。不自然にも棒立ちのまま彼女の特訓を見守る役にまわされた。




 このジムにやってきてもう何時間経っただろうか?



 壁にかけてある時計をみると2時間は過ぎているようだ。



 その間に千速は男性相手にスパークリングをしてみせた。彼女の魔法なのか? 体が勝手に動いて拍手をさせられる事もあった。とんでもなく長い地獄で時を過ごしているようだ。



「ふふふ、やってこないか。どんな強者か楽しみにしていたけど、拍子抜けしたなぁ。君、もういいよ」



 彼女がそう言うとやっと海斗の金縛りが解けた。



「ぷはっ!! 強者? 萌香が何かしたと言うのですか?」

「乱暴な事をして御免ね♡ 色々あってアタシ達は彼女をマークしているのね。勿論、アタシが君を気に入っているのもあるけど、君の事はまた狙いにいくね♡」

「いや……もう来なくていいけど……それより萌香が強者って?」

「ふふふ、教えて欲しいなら今度のデートで教えてあげるよ♡」

「いや……あなたとデートする気なんて全然ないのですが……」

「お~い。大丈夫か。お兄ちゃん」



 千速と海斗が振り向くとそこにスポーツウエアを着た萌香がいた。



「随分と遅刻したじゃないか。この千速香澄に恐れ慄いて来ないものかと思っていたぞ? はっはっは!」

「こういう所に私服では来ないでしょ? このカッコいいヤツを選ぶのに時間がかった。許してお兄ちゃん」

「いや、萌香、これは……グッ!?」



 また魔法が掛かって海斗の口が塞がる。彼に喋る権限は与えないらしい。



「約束は守ってもらうよ? オバサン。私が勝ったら、金輪際お兄ちゃんと私に関わらないで貰う。いいね?」

「話が通じるコのようで良かった。私が勝ったら無条件で彼は私の彼氏となり、アナタは可愛いサポーターとなる。いいね?」



 え~! 納得できない~! と海斗は声をだそうにもだせない。



「わかった。オバサン、さっきまで猛練習していたみたいだからコレをあげる」



 萌香はそう言ってバッグから取り出したスポーツドリンクを千速に投げ渡した。彼女ももう1本取り出してゴクゴクと飲む。



「気が利くね。思っていたよりもしっかりしたコでお姉さんも嬉しいぞ」

「お姉さんだなんて思ってねぇよ」



 千速もゴクゴクと飲み干す。



 やがて2人はリングにあがり、ヘッドギアとグローブを着ける。



 何が始まるのかとジムにいた面々がギャラリーとして周りに集まる。



 千速は目を蒼く光らせた。しかし萌香と海斗以外はその事に無反応。



 ここにいる面々は彼女が魔女であることを知っているのか? あるいは彼女が目を光らせている事に気づいていないのか?



 様々な事が考えられるが、海斗が心配している事は1つだ。



 顔をこわばらせている萌香が狸になってしまわないか。



 ゴングが鳴る。



 案の定、その瞬間から目を赤く光らせた狸が突然リング上に現れた。しかし、千速の様子もおかしくなっていた。



「ちょっ! と、と、トンマ! いや、タンマ!! タ!! マ!! トイレ!! いでぶっ!!!」



 狸のアッパーパンチが魔女のボクサーの顎を見事なまでに捉えた――



∀・)不条理には不条理を(笑)仕込んだのは萌香のほうでした(笑)また次号☆☆☆彡

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― 新着の感想 ―
まさかこういう手を使うとは! でも不条理には不条理の精神、嫌いじゃないです♪
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