第21話「喫茶店に魔女の一団襲来!じゃなかったわね!魔女の一団来客!」
朝、爆走する大型バイクの後部座席で狸になった萌香は必死にしがみつく。
「いっけなーい! 遅刻遅刻遅刻!!!」
「安全運転してくれって言ったでしょうが!!!」
ソラの全力疾走で出勤時間には何とか間に合った。
「そういやぁ~昨晩お兄ちゃんから電話あったな」
「今日は忙しいわよ? 休憩時間がないかもよ?」
「え~そんな仕事ならば明日辞める~」
「はぁ、アナタってどこからがマジで、どこからが冗談なのか分からないわね」
「私はいつだってマジだよ!」
その日はソラのいうとおり、半端ない忙しさに追われた。
海斗にバックの電話を入れる暇なんて全くなかった。
帰りはソラが萌香の自宅まで送ってくれる。明日はドロップアウトの開店日だ。そういえばソラと五十嵐の件以来、まったく会話を交わしてすらいない。
「お兄ちゃん、あのマグロ解体場で元気にやっているのかなぁ」
そうぼやきながら眠りに就いた。
翌日、ドロップアウトに来るとそこにはソラと海斗がいた。早くから店に来ていたようだ。
「店をやめる!?」
「ああ、僕がどれほど頑張っても大地さんに想いが届かないみたいだし」
「いや、そういう問題!?」
「騒ぎ過ぎよ、萌香。店長は確かにホモっぽいけどホモじゃないし、あんな事があったから店を辞めようっていう気持ちになるのも分かるわ。でも、あのお願いだけは聞いてくれるのよね?」
「うん。萌香の意思は尊重する」
「お兄ちゃん……」
「だけど、今日1日はしっかり働くよ。最後ばかりは美しく飾りたいものだから。妹に手本となるような姿をみせる事ができたら」
「お兄ちゃん……お兄ちゃんが手本になるような姿をみせた事なんて1度もないよ……」
「うふふ、言われているわね。じゃあ今日は1日頑張らないと」
ソラが海斗の肩をポンポン叩いて準備を始める。
それから開店時間はすぐにやってきた。
大地はやはりやってこない。それよりも早く客が入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
「ランチを2名でくださるかしら?」
「隊長、私は私で選びたいです」
「隊長でありませんわ! 桂さんですわ! 悠月さん、注意しなさい!」
「あの、そのメニューだと店長が来るまでもう少々お待ち頂きたく……」
「あら? 店は開店しているのに?」
「上にあるコーヒーやセットならば今すぐだせます」
「いいわ。その店長さんとやらをお待ちしましょう。悠月さん、座りなさい」
「言われなくても座りますよ……隊長……」
「隊長じゃありませんわ! 桂ですわ!!」
桂と名乗る女が悠月という後輩の頬をぶった。いや、何なのコレ、この店にはまともな客がこないのかよ? と萌香は顔にだしてみせた。
大地が現れたのは開店から30分後。ソラから「ランチ2名よ」と言われると「あいよ」とあくびをしながら答えた。そんなに客が来る店ではないのに、客がやってきてもさほど喜ばない。この男の本性が何なのか萌香はやはり不思議だと感じてやまなかった。
気になる客の方は30代~20代の女性か。2人とも高貴な洋服を着ている事からして、それなりの仕事をしていそうだ。先ほど意味不明な暴力沙汰があったというのにも関わらず、2人ともそれを忘れたかのように談笑している。
「美味い!!! 美味いですわ!!!」
桂は一口サラダを口にすると凄いオーバーリアクションのような感想を述べる。
何このオバサン? と思わず口にしそうになった萌香だったが、その口は察したソラが急いで塞ぐ。
桂一行は1時間ほどドロップアウトで過ごした。
彼女達が去るとまた新たな客がやってくる。
「にゃ~ん♪♪♪ あま~いカプチーノをじっくりとで♪♪♪」
「うっす。自分はこのチーズケーキとエスプレッソのセットで」
新たなる変な客と言ったほうがいいか。
何だか奇妙な感じがした。
「コレ、あの箒オバサンが仲間を誘っているのじゃあ……」
「萌香、何か言った?」
「あいや! 何でも!」
「萌香、砂糖が切れたよい。地下室からとってくるよい!」
大地から指示が飛ぶ。すかさず動いた萌香だが、不意に海斗が気になったのでみてみると、部屋の片隅でモジモジしながら大地へ熱視線を送っているばかりであった――
「何が手本となる姿だよ。ばーか」
コレは思わず小声で呟いた。
開店時にやってきた桂をはじめ、1時間ごとに女性客の来店が目立つ。まるで計画的にやってきているようだ。メニューの料金の高さから不満がでる客だって何人かでてきても可笑しくない店だが、誰一人としてクレームはつけない。
むしろ――
「美味しいにゃああああああん♡♡♡」
「スゲェうまいっすよ♡♡♡♡♡♡」
大絶賛の嵐。これは計画的ではないだろう。そう述べる客一人一人の顏がその嘘偽りのない感想を現わしている。大地の手腕を褒めるべきだろうが、ここまで店が繁盛した事もないのだろう。ソラはずっと笑顔だし、無表情な印象ばかりがある大地も少し誇らしげにみえた。
陽が沈み、残り1時間で閉店となる。
客足がここまで途絶えた時間がない。
幸いスタッフが4名もいたので休憩時間を何とかまわすこともできた。
今日は相当な黒字になるだろう。そんな事をソラが口にすることもあった。
最後は着物を若い雰囲気のある婦人がスーツの女子と現れる。
「ホットコーヒー。セルフドリップで」
「通だね。イブちゃん。じゃあアタシはバリスタドリップを指名で!」
「指名?」
「うん。そこの金髪のコに!」
「え? 私?」
「違う! イケメン君の方!」
「えぇ!! 僕!?」
思わぬ展開になったものだが「はっはっは! やってみるよい!」とすっかり上機嫌な大地が海斗の背中を押した。これほど沢山の客に恵まれたのだ。少しはサービスしてやってもいい。念のためにソラも傍につけて。そんな計らいである。
「ねぇ、君。ここが地元のコ?」
「ちょっと集中させてください」
「答えてあげなよ。海斗くんさ」
「だから緊張しているのだって!」
「じゃ私が答えてあげる。愛媛」
「へぇ~。何で広島にきたの?」
「妹が心配になったから……」
「それで! 妹思いなのね!」
「いや、大事な家族だから……」
「素敵な話じゃない。イブちゃんもそんな睨むのをやめて」
「私の大事な伴侶ですから……」
最後の客とおぼしき女性は海斗にコーヒーをつくって貰うことでテンションをあげて楽しんでいる。
それをみて微笑む萌香であったが、カランコロンという音とともに驚いた目を見開いた。
「萌香」
「パパ」
そして千速の思わぬ質問が海斗に降りかかる。
「例えば君の恋人の正体がゴリラだったら、君はその恋人を愛せる?」
「えっ」
瞬く間にドロップアウト店内は凍りついた――
∀・)笑えそうで笑えないギャグってあるよね?ってつもりで書きました(笑)神泉組はやはり書いていて凄く楽しいですね(笑)ちょっといつもより長くなった。気になるところで切りましたが次号☆☆☆彡