第20話「人生いろいろ。超能力者もいろいろ」
銀山空が生まれたのはアメリカのニューヨーク。治安が悪いクイーンド街だ。両親はどちらも黒人らしいが、ソラが物心つく頃には彼女の近くにいなかった。母側の祖母に引き取られて育つ。彼女が超能力に目覚めたのはまさにその頃から。はじめはスプーンを曲げたり、物を浮かせたりして楽しんでいるばかりだった。
ある日、その彼女の家に強盗が入る。有り金を全部よこせと叔母の知り合いがギャング仲間を引き連れて強襲してきたのだ。激しい口論の末に叔母は射殺され、ソラもその後を追う筈だった――
しかし気がつけばギャングは皆、血塗れになって横たわっていた。
その状況から犯人はソラに他ならない。でも物的証拠は何もない。
肝心のソラも「何も覚えてない」と話すばかりで。
ただ警察に捕まりきって1週間、アメリカに拠点を置く超能力者機構が黙ってはいなかった。ソラの保護を名乗りでたのである。もっとも、その親族を装ってだ。新しい居住はニューヨークからだいぶ離れた州になる予定だった。その移動のなかで違う組織がソラを奪いにやってきたのだ。
ソラはそこから強力な超能力を扱う組織の争奪戦の獲物となった。彼女はその1年でアメリカからカナダ、カナダから日本と3か国を渡りゆくことになったという。彼女がまだ6歳の時の話だ。カナダの組織から日本のCEAに身が渡った際はカナダの組織にシアのスパイがいた。日本に到着して間もなく彼女は埼玉にある総本部から神奈川にカモフラージュの黒人夫婦の娘として生きてゆく事に。
その時に授かった名前が「銀山ソラ」であった。
神奈川で過ごすといっても転々としていた。ソラを狙う組織は世界中にあり、いつ強奪されても可笑しくなかったからだ。しかし歳を増すごとに彼女は意思を持つようになった。組織からの拘束が煩わしく感じるようになったのだ。彼女が意を決し家出をしたのは18歳の時の事。
その時にはもうCEAの一員としてエージェントの入隊が決まっていた。家出する一年前から五十嵐拳志朗が指揮するシア0の研究生として任務補佐をやっていたとすらしている。やる気なんて少しもなかったが。
そんなソラの思いをCEAが汲んでくれる筈もなかった。新拠点を転々とするたびに五十嵐をはじめとするシア0メンバーが彼女の目の前に現れるのだ。ときに仲良くしていた親友を拉致されて脅迫を受けることすらもあった。拉致された友はソラと縁を切り、身を護る選択をした。
それでも自由に生きることを選びたい彼女はこの広島へとやってきた。それから何となしに立ち寄ったのがこのドロップアウトという喫茶店だ。その時に彼女はとってもお腹が空いていた。
だされたランチを頬張るように食べる。
彼女はその美味しさからなのか、それともその寂しさからなのか、溢れる涙を流す。
「どうしたっていうんだよい?」
「美味しくって……ごめんなさい……」
「お代はイイよい。何があったかも聞かねぇ」
大地は彼女が泣き止むのをじっと待っていた。勘定なんてしなくてもいいっていうのに。ただこの言葉を掛けるために。
「明日からここで働くかい?」
そしてドロップアウトの一員となった――
全てを聞き終えた萌香は拍手をおくった。
「凄い話だね。それは何て言う映画?」
「あの全部、私の人生談なのだけども」
「うん、でも面白いなって思った。私とちょっと似ているかも」
「そうなの?」
「だけど、この店って何だか不思議ね」
「あなたもそう思う?」
「居場所のなくなった人に居場所を提供してくれている気がする。ん~あれこれ考えていると、なんだか眠たくなったな。ここで寝てもいい?」
「もうこんな時間だし。明日も仕事だし。いいわよ」
「明日は安全運転で頼むよ。ソラたん」
「私はいつでも安全運転よ?」
「ん~むにゃむにゃ……」
萌香はあっという間にいびきをかいて寝てしまっていた。
なんて平和なひと時だろう。ソラはこの瞬間をずっと護りたいと思えた。
彼女は毛布をそっと萌香に掛ける。そしてその横で一緒に寝る事にした――
∀・)読了ありがとうございます。我ながら結構好きなはなしでした。ソラさんって強いんですよ。超能力者としては。そんなこんなで彼女の日常は続いてゆきます。また次号☆☆☆彡