第16話「不死鳥は歪んだ世界を救わないって言うじゃないか」
赤く目を光らせた狸が超能力者の女を1発KOしてみせる。
その光景に一瞬ポカンと口を開けて眺める五十嵐だったが、すぐさま強襲した。
「俺の可愛い後輩をやりやがったなぁ!!!」
「喧嘩ふっかけたのはそっちのほうだ!!!」
五十嵐の攻撃は瞬時にかわされ急所へ萌香のパンチが入る。
それでも彼女を倒さんとする彼は倒れなどしない。
気がつけば萌香は狸から人の姿に還っていた。
しかしソレで正気に戻ったという事ではなかった。
「ウフフ、ウフフフフ! アハハ! アハ!! アハハ!!! アハハハハーー!!!!」
両手が特殊な義手の五十嵐は3分と持たず、その2つを失う。
我を忘れては目を赤く光らせ、狂喜乱舞する萌香はもう止まらない。
最後の一撃をまともに喰らって絶命する。
その瞬間に眩しい閃光が走る。そしてその光は瞬く間に広がる。
五十嵐拳志朗のまえに神々しく輝く人間サイズの大きな怪鳥が現れた。
「お前はーー」
五十嵐は目を覚ます。視界に映るのはその顔を覗きこむ牧野絵里の顏。
「うわっ!?」
「うわっ!! って驚かせないで下さい。牧野の顔面に汚い胞子が飛んできますから」
「胞子なんて飛ばねぇよ! それより、俺もお前も化け物に殺されかけなかったか?」
「化け物ね……確かに牧野たちではどうしようもないぐらいに強いお狸さんでした……」
「だが不思議だ。さっきまで怪我だらけだった俺の怪我も痛みも何一つ存在してない」
「どうやらメアリーさんのところには怪物がゾロゾロいるようですね。彼女の復帰を画策するよりも、彼女をじっくり偵察してゆくほうが得られるものはありそうです」
「なんだかなぁ……総督にどう伝えたらいいものか。整理する必要があるな。もしも此処に例の不死鳥がいるっていうならば、いよいよマジな案件になるぞ。まぁきぃのくぅん」
そんな彼らを高層ビルの屋上から眺める魔女がまた一人。
「とんでもないモノを確認したわね。さて……これをどう報告すべきか……」
鷹山優は警察の仕事をしながらも魔女としてはドロップアウトの偵察に自らの判断で務めていた。
ソラがCEAの関係者である事。
萌香がCEAをあわよくば殺害してしまうほどの化け狸であった事。
何よりCEAの手練れがここ広島にやってきている事。
そしてその全てが「不死鳥」の存在がある事によって説明できてしまう事。
「なんだかねぇ……香澄さんにどう伝えたらいいものか。整理する必要があるわね。もしも此処にあの不死鳥がいるっていうならば、いよいよマジな案件になるわ。私を弄っている場合じゃないぞ? 山崎」
萌香は「ん……」と目を覚ます。彼女はリクライニングチェアで寝ていたようだ。
「あれ? ここってドロップアウト?」
周りを見渡す。机のうえにメモが置かれていた。
『気を失って倒れていたようだから、助けてあげたよい。大地』
とてつもなく汚い字だが何とか読めた。
「店長ってば何気にいたのね。でも、何で私は気を失ったのかな?」
萌香は気づいていなかった。自分が恐ろしいものになりうる事も。
そんな格闘があった夜。
広島の歓楽街のVIPルームでヤクザの大物が自身の部下に殺害された。
「おい! どういう事だ!? 体が!? 体が動かないぞ!?」
「違います!! 勝手に動くのです!! 俺の意思と別に!!」
「何をしている高橋!!! その銃をしまえ!!!」
「だから勝手に体が動いてしまうのよ!!!」
その部屋の片隅から男2人がスッと現れる。
「フッフッフ、柳井会長。俺を懐に入れてしまったのが災難だったな」
「五味!!! 貴様か!!! この金縛りは!!!」
「フッフッフ、どうかなぁ。どんな生命でも救ってくれる不死鳥っていうのがこの広島の地にいるようだが、最近ベストセラーになった本のタイトルで『不死鳥は歪んだ世界を救わない』ってあるじゃないか。とっくに歪みきっているお前らを救ってくれるものなのかね? 試したくなるなぁ」
「やめろ!!! 高橋!!! 五味!!! 岩鳥!!!」
指定暴力団「牛鬼会」会長の柳井は傘下の大幹部である高橋によって射殺。彼もそのまま自殺したとされる。その後任には間もなく若干27歳の新鋭、五味秀一が就いた。
「五味殿、どうやら不死鳥が昨晩横川のほうに出没したと拙者に情報が」
「フッフッフ、そうか。見つけたソイツの手柄だな」
「明確な情報ではないが。あの喫茶店の近くだとか」
「フッフッフ、久しぶりにいってみるか? 岩鳥よ」
彼らの思いとは裏腹に、この世界の不死鳥は気まぐれに動いていたーー
∀・)ご一読ありがとうございます♪♪♪七海いとさんの『不死鳥は歪んだ世界を救わない』はマジで名作ですよ♪♪♪心からオススメしますよ~という名作の推薦をして次号☆☆☆彡