第15話「誰にでも誰にも知られたくない秘密ってあるもの」
ソラの様子がおかしい。それは開店していないお店に客が入ってきたからではない。
「あの、オッサン、誰ですか?」
萌香は単純明快に尋ねた。
「おぅい! お客さんに対して失礼だろうオマエエエェェエエェエ……」
すかさず海斗は彼女の頭を叩くが男は動じない。
「あ~そこの黒人のオネェちゃんの別の仕事の上司だよ」
「す、すいません。ウチの妹が失礼な事をしちゃって!」
海斗はパッと彼に近寄って頭を下げるが、それは男の頭に直撃して頭突きになった!
「あ、すいません。ウチのお兄ちゃんが結構天然なもので」
萌香はニタニタと笑うばかり。
ソラは先に鷹山へコーヒーをだす。それから男のぶんも作り始める。
「アタタ……君ら兄妹で金髪か。柄が悪いのなら彼女の後輩にはうってつけだな」
「あの? これは地毛ですが?」
「はい?」
「だからこれは地毛だって言っているのよ。オジサン」
「はい! コレを飲んだら帰ってください!! コイツらは絶賛教育中なので!!!」
バンッ! と机のうえにブラックコーヒーを叩きつけるように置く。
彼の顔にその飛沫がなかなかに当る。しかし彼は苦笑いで済ませた。
「ふふふ、今日は災難だなぁ。俺にとってもお前にとっても」
「どういう意味よ?」
「天命からは逃げられないぞぉ? メアリー・ダァマァ?」
パンッ! と今度は男の頬を叩く音が店内に広がる。
「帰れ。何かしたらタダで済まさない」
「おいおい。俺はお客さんだぞぉ? これが新人の教育にいいと思うか? なんとまぁ、大層ふざけた金額のメニューだが金はだしてやる。この道でやっていくつもりがあるならば、ちったぁまともな接客をしやがれ。なぁ、そこの美人のお客さんよう?」
鷹山は苦笑いと会釈で応じる。男はお札を机のうえに置いて去る――
その雰囲気に応じるように鷹山も「釣りはいいわ」とお札を机のうえに置いて去る――
静かな空間に3人の気まずい空気。
しかし海斗は「今日は訊かないけども、アンタが何を目的とした何者なのかちゃんと教えてくれないと僕も萌香も働く事はできない。また日を改めて来るよ。帰るぞ?」と萌香の肩を持つが、萌香は首を横に振った。コイツは狸でもお人よしなのか? と彼は顔にだして店をでる事にした――
「………………………………………………」
「………………………………………………」
「あの、ソラたんさ………………」
「………………………………………………」
「何となく分かっているよ。私を喋る狸って事で店のマスコットみたいのにして売り物にしようとしていた事ぐらいね。勿論、許してなんかないよ。だけど今日のソラたんをみて分かったよ。この店で本当のソラたんになろうとしているのだって事。でも、そうさせてくれない何かがソラたんにはきっとあるのだろうね」
「………………………………………………」
「私は説明を求めない。でもこの店で何かを成し遂げたいってソラたんは何だか好きかも♡」
「…………ごめん。今日は帰って」
俯いたソラが顔をあげる事はなかった。暫くソラを見つめる萌香だったが間もなく諦めた。
そして萌香はトボトボと店をでる。そこで急に体が重くなるのを感じたーー
「はい。牧野が捕縛。君には人質になって貰うから、チョット記憶喪失になって貰うよ?」
自分より背丈のある女。彼女と目が合うと緊張をしてしまい、姿を変えてしまう。
「あら? メアリーさんって化け狸の職員を雇っていたのかしら? 牧野ビックリ!」
「体が……体が思うように動かない……!?」
牧野は目を赤く光らせている。何かしらの術で萌香の身体を拘束しているようだーー
が、目を赤く光らせているのは彼女だけでなかった。
「自分の事を自分の名前でいうなぁ!!!! ムカつくぅ!!!!」
メス狸のアッパーが牧野の顎を直撃した。
∀・)ご一読ありがとうございます。最後の場面で僕はちょっと笑いました。また次号☆☆☆彡




