第12話「あの子の隣の席も住めば都」
野茂重道、彼は元々四国で名を馳せた化け狸のカリスマであり、その手腕から営む不動産屋を大規模なものに発展させた。しかしある出来事があって彼は隻腕になってしまい、拠点である四国・愛媛を離れることに。萌香一家とは風太や芳香との付き合いもあって深い所縁もある。ゆえに大層な物件を海斗へ紹介してもよいものだと思えたが――
萌香一行はエレベーターに乗って最上階の30階を目指す。
萌香は硝子盤に顏をペタリとつけてその絶景を「ほえ~」と眺める。
「いや重道さん、いくら何でもこれで月々4万はさすがにないでしょ?」
「あぁ~そうだねぇ~月々30万は払って貰おうと思うねぇ」
「話が違うだろ。僕はアンタの顔面にウ〇コを投げてやりてぇよ」
「でも、この物件そして海斗君は特別だ。月々3万にまけてあげるよ」
「「えぇ!? いいの!?」」
「本当は30万だけど。同じ3だし。3万という事で。まっいっか」
「「えぇ!? 本当にそんなのでいいの!?」」
30階の廊下を歩く。それはもうレッドカーペットでまるでホテルのような内装。
「この階の角部屋になるよ」
「角部屋とか最高かよ! もう僕はここに決めるよ!」
「そう言ってくれると助かるなぁ」
心が浮かれるままにそのドアを開ける。そこに広がっていたのは腐敗匂漂う凄惨な血痕に溢れた部屋の光景――
「な、何コレ……何があったの……」
萌香は何も気にすることなく笑顔でスタスタと部屋にあがりカーテンを開ける。
「ん~絶景♡ これで月々3万とか夢のようだね♡ お兄ちゃん、ここに住んでみたら♡」
「住めるかぁ!!! 何だよこの鮮血夥しい光景は!!! どっからどうみても殺人現場だろうが!!!」
「いやぁ~前の住人がマグロの解体を得意としている職人でね」
「こんなところでマグロの解体なんてするかぁ!? ほら! この放置されたテレビをみてみろよ! 血の文字で『ユウキが犯人』って思いっきり書いているじゃねぇか!!! これがダイイングメッセージじゃなかったら何なんだよ!!!」
「ん~おやっさん、そのマグロ職人さんのお名前はナニ?」
「此処弟田須者葉祐樹さんだったかな。凄く優しい人だったよ」
「退去まえの記念にマグロ解体をしちゃたのかもしれないね?」
「なんだよ! そのとってつけたような変てこな名前は!! 退去前にこんな真似する馬鹿がいるか!!!」
萌香は溜息をついて血痕がたくさんこびりつくソファーに腰掛けて語りはじめた。
「お兄ちゃんさ、学校に行っていたのでしょ? お兄ちゃんのようなガチホモは気にしたこともないのだろうけども、クラスのなかにはこんな女子がいたはず。それまではミギワさんかノグチさんでよろしくみたいな地味眼鏡女子が夏休み明けて髪は金髪、顔はバッチリ化粧でメイクの体型もなんか大人っぽくなっていたなんていう女子。でも、そのコにその夏休みで何があったかなんて聞く? 聞かないよね? イメチェンする理由は人それぞれ。そのコがずっと隣の席に座る女子だったとしても、敢えて態度を変えて接することなんてしないよね? それが1番大事なことなの。全て巡り合わせなの――」
ツッコミ担当にまわりがちな海斗は表情が変わらないが、重道は真剣な顏になりだしていた。
「いやお前、それとこれとじゃ話が……」
いらないツッコミはさらなるツッコミの餌食となる――
「お兄ちゃんは『もう僕はここに決めるよ』と言った。あの永久のティーネージャーと名高いサ○シだって「君に決めた!」と言ったパートナーを見た目が悪くなったからで切ったりなんかしない。男なら一度決めた新居に文句言ったりすんじゃなええええぇぇぇええぇぇえぇええええぇぇぇええぇぇえ!!!!」
萌香のその覇気は突風を生み、重道の心を揺さぶった。
「な……なんていう言葉を言ってくれるんだい……萌香ちゃん、オイラァ、不動産屋をやってきてこれほど心を揺さぶられた事はないよ……今で不幸な事ばかり起き続けたこの物件、やっと素敵な宿主が見つかった……! よかったな……! お前さんよう……!!」
重道は赤く染まる天井を見上げて、抑えようにも抑えられない溢れんばかりの涙を流す――
「いや、今の話で泣いてしまうような要素があるぅ!?」
ここまでくると海斗のツッコミは意味をなさない。
かくして海斗の新居は謎の血痕が大量に残る30階建て最上階の物件に決まった――
「おぅい!!! 僕を置いてけぼりにするな!!! 納得できるか!!!」
そういう巡り合わせなのである。シスコンホモ野郎は黙ってこの物語についてきやがれ――
∀・)推しの子第2期が始まったのに合わせてドロップアウト連載再開です(まぁ偶然だけど)♪♪♪毎週月曜21時~でやっていくよ♪♪♪よろしくぅ☆☆☆彡