第11話「お久しぶりです、おやっさん」
萌香の案内で雑居ビルの中にある不動産屋のまえに来た。
「ここだよ!」
「野茂不動産」
「ん? どうかした?」
「いや、野茂って名前を聞くと重道さんを連想しちゃうから」
「そうだよ?」
「えっ!? そうなの!?」
店内に入ると木刀を片手に持った隻腕の男、野茂重道が悠々と寛いでいた。
「重道さん!?」
「おう、海斗君。久しぶりじゃあねぇか」
野茂重道は四国では不動産王を担いながらも大任侠と謳われていた化け狸のカリスマであった――
「それで? 海斗君は愛媛の大学に通っているのに何でここに住もうと?」
「休学申請しました。1年ぐらいここに住もうかと」
「えぇ? 急だねそいつぁ? 何かあったのかい?」
「この間抜けな妹が家に帰らないって言っているのと妹の働く店が心配に思ってです」
「違うわ! このホモ兄貴が勝手にやってきて勝手に私の働く店の店長に惚れたの!」
かくして萌香一行は海斗の住むアパートを探しに横川一帯を巡る事にした。
「あの、重道さん」
「何だい?」
「どうしようもないのはわかるけど移動が徒歩なのってどうにかならないの?」
「狸になって走ってみるのもいいとは思うが街では目立ってしまうからなぁ」
「いや、その木刀をかざして闊歩するスタイルだけでも充分目立つかと……」
「護身用さ。なぁに誰もきにしちゃあいねぇ」
「いや、みんなみているよね? 道行く人たち全員ジロジロみているよね?」
「じゃあ狸になっていっちょ走るかい?」
「そんな事が平気なのはコイツだけです」
「平気じゃないわ! 私が狸になるのは事故って設定!」
「まぁまぁイイ歳にもなって兄妹喧嘩はよしなさい。ほら。ついたよ」
古めかしいアパートとアパートの間にある路地裏にその小さな家がポツンと――
「いや犬小屋だろ!!! コレ!!!」
「何を言ってやがるの海斗君、うしろのお家にはちゃんと人間が住んでいるぞ?」
「うしろのお家!?」
よくみると後ろのお家から汚いボロボロ姿のオッサンがでてきて背伸びした。
「ふぅ~今日もダメ元で職安いくかぁ~」
そのままオッサンは情けない後ろ姿をみせて裏口からどこかへ出発した。
「いや!!! 実質ホームレス!!!」
「文句言うなし、お兄ちゃん。もともと狸の私達にはうってつけじゃん」
「じゃあ! お前が住めよ! お前の家と此処で入れ替えっこしろ!!」
「ん~でも内装は綺麗だけどな」
「あ~ホントだ~綺麗だねぇ~」
海斗のツッコミを無視して狸になった重道と萌香は犬小屋のなかを覗いていた。
そして小屋からでてくると片腕で親指をたってみせる。
「だから外見でアウトだって言っているだろ!!!」
「新築1ヵ月のできたてホヤホヤだぞ?」
「そうだよ、お兄ちゃん。後ろのお家には頼りになりそうなご近所さんがいるし」
「無職な時点で頼りになるか!!! ダメ元で職安行く奴が頼りになるか!!!」
「ん~でもこの近辺で月々4万ぐらいの1DKというとここぐらいしかなぁ」
「いや! 他にもあるでしょ! 大体アンタ、1DKの意味を知っているの!?」
「あ~分かる分かる! 犬、大好き、小屋というヤツでしょ?」
「違うわ! こんな事言いたくないけども、アンタ、よく不動産屋なんてできたな!?」
「お兄ちゃん!!! それはいくらなんでも失礼だよ!!!」
「お前がマジ顏でキレるなぁ!!!」
そこから勢いよく兄妹喧嘩が始まった時、重道は懐から煙草をとりだして吹かす。
「ふぅー、そんな事もあろうかと思って、この近くにとっておきの物件を抑えてあるぞ?」
「また犬小屋とか言ったらブッ飛ばしますよ?」
「まぁついてこい」
萌香一行は歩いて5分ほどのその物件に絶句。
その物件は30階建ての高層ビル。犬小屋なんかと比べ物にならないモノだ。
「「話、聞いてたぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
野茂重道、彼は化け狸のカリスマにしてこの町の不動産屋のカリスマでもあった――
∀・)いや~忙しいです。なんか僕のことを無職のオッサンだとか噂している人がいるらしいけども、バリバリ働いている介護士のオッサンだからな!休日出勤もがんばる介護士のオッサンだからな!次号☆☆☆彡