第9話「お控えなすって!」
萌香と鷹山がドロップアウトへ再び入店した時、それは海斗と大地が手と手をとりあっていた瞬間でもあった。
「あの~お取こみ中に失礼? お探しになられていたのはこのコかな?」
鷹山はポカンとしながらも、割って入るように萌香を海斗へ突きだす。
萌香は「ちょっ!」と言いつつも「ごめんなさい」と俯いて謝る。
それが誰に対してのものなのかは分からなかった。
しかし鷹山はこれ以上ここに構ってなどいられないと空気を読み「じゃあ、後は各々よろしくぅ」と店をでていった――
誰も何も話さない空気が続く。力強く握られていた大地の手はやがて離されたものの、海斗の熱視線は向けられたまま。
「とりあえず何か飲む……?」
ソラがようやく口を開く。海斗はアメリカーノをもう1杯、萌香はカフェラテを頼む事に。大地は「あいよ」と応じるもやや元気がなくなっていた。
「何で私を追ってきたの?」
「お前が一人で生きていけないと思ったからだ」
「駄目だったら帰るって手紙に書いたでしょう」
「書いてない」
「書いた!」
「書いてない!」
「書いたよ!!」
「書いてない!」
兄妹喧嘩が始まりそうになったタイミングでソラが水を差した。いや頼まれたコーヒーを差しだしたといったほうがいい。
ゆっくりとアメリカーノとカフェラテを飲みながら一旦休戦。
静かなひと時が流れるが、ソラはどうにも落ち着かなかった。
この静寂を打ち破ったのは意外にも大地であった。
「まぁ~なんだ。ウチもこんな感じの店だから、ちょっと華があるほうがいいよなぁと思ってオシャレでセンスありそうなお兄ちゃんがウチで働かないか後ほどスカウトしようと思っていたら、まさかお兄ちゃんがそっち系のコで入職希望をしてくれるなんて……思いどおりにいきすぎて驚いたよい」
「じゃあ店長さん! 僕を店員として! また貴方のパートナーとして採用してくれるワケですね!?」
「あぁ~店員としては大歓迎。でも後者はお断りだよい。しっかしまぁ生まれて初めてそっち系のコにガッツかれたなぁ」
萌香は「はぁ」と溜息をつく。彼女は兄の特殊なパーソナリティを嫌悪する妹でもあった。それが地元を飛びだした理由の1つでもある。しかしここからまた遠くへ逃げる事もできそうにない。軍資金は底をついたのだ。今彼女がいるココ、広島、横川で収入を得なくては生きてはゆけないのだ。
「ソラたん、アンタも不本意ではあると思うけど、私も不本意のうえで兄妹共々お世話になれる?」
「ソラたん……」
「お願いします」
萌香は立ち上がり、深々とお辞儀をした。
その承諾はソラでなく店長の大地がくだす事となった。元気よく「はっはっは! じゃあソラ、改めて2人にこの店の事を教えてやるよい!」と即答して――
「はい! チーズ!」
こうしてカフェ・ドロップアウトに狸の兄妹が入店した――
∀・)読了ありがとうございます♪♪♪はじまります。新生ドロップアウトが。これからのドタバタにご期待を(笑)(笑)(笑)