第六十七話 ※※の記録
これは深夜、とある一室での記録。
机の真ん中に、蝋燭の火が揺らめく。
それを囲うように、数人の女性たち。
「とにかく、あのマリアという生意気な娘には、死よりも恐ろしい償いをしてもらわないと、気が済まないわ」
豪華なドレスを着た、高圧的な女性が口にする。
「全く持ってその通りです。あの女は我々が愛するアレン様に馴れ馴れしいだけでなく、あまりにも失礼な態度を取っています。平民らしく、卑しい尻軽女が、アレン様の視界に入るだけでも耐えられません」
高圧的な女ほどではないにしても、高級そうなドレスを着ている。
彼女の言葉を聞き、高圧的な女は嫌らしく笑う。
「実は私、お父様にお願いしようかと思っているの。あの阿婆擦れ女を傭兵に襲わせ、売春宿に売りつけてもらえるように」
女は凄くいい顔で笑う。何ていい考えだろうかと、自分に酔いしれながら。
周りは微妙そうな顔になるが、女に睨まれ、すぐに賛同の声を上げた。
「しかし、大丈夫でしょうか? マリアとかいう女は、あの精霊の子のお気に入りだという噂がありますが」
仲間のそんな言葉を聞き、女は高らかに笑う。
「あの化け物にそんな感情があるわけないわ。貴方たちごときでは、直接会って、話したことがないから分からないかもしれないけどね。あれに人の感情などない、本物の化け物よ」
「では、大丈夫ですね」
「ええ、その通り。例え、本当にあの化け物のお気に入りだとしても、私のお父様の権力でどうとでもなるわよ」
女の言葉に、周りは賞賛の声を上げる。
――ふと、蝋燭の火が消えた。
「初めての食事が、貴方たちのような屑で、本当に良かった」
誰――
そう言いかけ、自分の声が出ていないことに気付く。体は動かないし、暗闇で前が見えない。今の状況に、頭が追いつかない。
「他の人たちは、痛みなく食べてあげたけど、貴方は駄目。だって、許せそうにないもの。私の大事なマリアを、そんな酷い目に合わせようとした貴方を、私は許せそうにない」
暗闇に、ふたつの光が灯る。
恐怖で頭が真っ白になる。
右手の痛みが――遅れて、脳に伝わった。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
食べられてるぅ私の体が何かに食べられてるぅぅ。
私のお父様が絶対に許さな痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「もしかして、私のこと、心配してくれているの? でもね、気にしないで。だって、死人に口なしだから」
そう言って、誰かの笑い声。
出ていくぅ私の中から何かが出ていくぅぅぅぅぅ。許してぇ、許してぇぇぇぇぇ。
泣き叫ぶ声は、甘い甘い蜜の味となる。
ばりばり、と――生きたまま、食べていく。少しづつ、少しづつ――彼女の苦しみを味わうように。
あぁ――なんて甘いのかしら。
甘美、あぁ――甘美な味。
――液体と言う液体を巻き散らしながら、女はゆっくりと絶命した。最後は液体以外、何も残らない。
彼女たちを食べ散らかし、恍惚の表情で頷く。
「ねぇ、マリア。早く私を殺してね。人の意識がある内に――どうか、私を殺して」
そう呟いて、嬉しそうに笑った。