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第四十三話 涙

 小鳥のさえずりと、日の光が部屋に充満している。

 マリアが目を覚ました先は、見知らぬ天井ではなく、ソフィーの顔だった。

 予想外のことに、彼女はギョッとしたが、しばらく身動きが取れない。


「ようやく起きたんですね。心配させないでください」


 そう言って、ソフィーはマリアの頬に触れる。

 そして、ゆっくりと顔が近づいてくるため、マリアはソフィーの顔を押さえつける。


「マリア、何をするんですか?」

「いや、それはこっちのセリフ何ですけど」

「私がすることを、拒否しなくなるのではなかったのですか?」


 ソフィーは不満げな顔でマリアを見下ろすと、顔を離す。

 

「それは、全てが終わった後の話ですから」

「終わりましたよ」

 

 マリアは目をぱちくりさせる。


「全部終わったんです。ここで、マリアの旅は終わりです」


 マリアは上体を起こす。


「ここは、アカシアの宿屋ですよね」

「そうです。他の2人は、荷物を持って出ていきましたよ。馬車は待機したままなので、そのまま王都に帰れるとのことです。お金の心配はいらないと、そう言っていました」


 マリアは視線を落とすと、シーツを掴み、手を震わせる。


「……何故、泣くのですか?」

「泣いてないですよ。ただ、悔しいだけです。何もできない自分が」

「それでいいじゃないですか。マリアは、何もする必要がないのですから。そのまま、私の傍にいてくれるだけでいいのです」


 マリアは、何も言えない。


「エリーナは、あなたが無事に王都に帰ることを望んでいます」


 その名前がソフィーの口から出たことに、マリアは驚いた。

 ソフィーに視線を向ける。


「そして私も。あなたの無事を願っています」


 ソフィーはマリアの髪に触れる。


「やはりあなたは、黒い髪の方がよく似合います」


 そう言って、ソフィーはマリアの顔に近づけ、軽く唇を重ねた。



 



 宿屋を出て、馬車が待機している場所まで2人で歩く。村の人たちはソフィーの姿を見て、腰を抜かしている。マリアはぼんやりとしており、そんな事態になっていることに気づいていない。ソフィー自身は、村人の慌てふためく姿に気づいているが、彼らの精神状態がどうなっていようと気にも留めない。


 住宅を抜け、門までしばらく歩く。何もない道。

 気配がしたため、マリアとソフィーは足を止めた。


 目の前の地面に、円形の線が浮かび上がると、内側から黒いローブを着た小柄な人間が静かに浮かび上がる。フードを深めに被り、顔は分からない。

 手には水晶玉を持っている。地面に足がつくと、魔力の線が消えた。


「えっと、確かメアさんですよね。ゴブリン退治以来ですから、久しぶりになりますかね?」


 メアは言葉を発しないが、両手に持った水晶玉をマリア達の方に近付ける。水晶が薄く光始めると、中から黒い人影が浮かび上がり、それはオーランドの姿となる。


「マリアさん、昨日ぶりですね。僕は今、王都の方のいるんですよ。どうです、驚きましたか?」


 マリアは驚いたと素直に認めたくないが、こんな伝達方法があるなんて初めて知った。


「驚いてくれたみたいですね。言葉はいりませんよ。その反応だけで、僕には十分ですから」


 マリアは訳の分からぬ悔しさで、体がムズムズとしてくる。


「まぁ、簡単に言ってしまえば、僕の目の前にある水晶玉は王家が管理している神器の1つです。メアが持っているのは、僕の魔力が通っただけのただの水晶玉ですが、神器と繋ぐことができます。繋げられる範囲はおそらく、この大陸中、と僕は認識しています」

「そんなことより、何の用ですか?」

「相変わらず、ソフィー様は冷たいですね。あなたのために色々と調べたというのに」

「もしかして、何か分かったんですかね?」


 身を乗り出すマリアの姿に、ソフィーは顔を顰める。


「僕が話す前に、まずはマリアさん達の現状を話していただけませんか」

「大方、把握しているのではないのですか?」


 ソフィーは疑いの眼差しを向ける。

 

「いえいえ、そんなことはあり得ませんよ、ソフィー様」


 マリアは頭の中で、少し整理してから、オーランドに話始めた。

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