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第三十八話 変化

 「もう一度だけ言う、俺の邪魔をしなければ、エリーナ以外は殺さない。だから黙って、大人しくしていろ」


 クラーラが前に出る。


「俺は大人しくしていろと言ったつもりだが?」

 

 トーレスはクラーラを睨みつける。彼女は一瞬、怯んだものの、前に出る。


「イレーネさんはどこにいるの?」


 トーレスは顔を顰める。

 

「イレーネさんを返して!」

「お前、俺が化け物だと知ってなお、そんなことを言うのか?」

「そんなの関係ない、イレーネさんを返して!」


 クラーラは今まで我慢していた感情が溢れだし、止まらなくなる。


 トーレスは急に泣き出したクラーラを見て、困惑する。


「トーレス、私はあなたに抵抗するつもりがありませんわ。それぐらい分かるでしょう? だから、少しだけ話を聞いて頂戴」


 トーレスはエリーナに向けた槍を地面に下した。


「少しだけだ」

「感謝、致しますわ」


 エリーナは深々と、頭を下げた。


「私たちがここに来た理由の1つは、イレーネの捜索ですわ」

「理解できないな、何のためだ」

「そんなの、連れ帰すために決まってるよ!」


 トーレスは横目でクラーラを見た後、すぐに視線を戻す。


「こいつは何なんだ?」

「名前はクラーラ。イレーネの恋人ですわ」

「恋人? あいつの女好きは本物だった訳か」

「そして、イレーネは彼女に手紙を残し、旅立ちましたわ。戦士が死地に向かう詩と、クーデタに参加する旨を書いて」


 トーレスは少し考え込む。


「なるほど、それでここまで来たわけか」


 簡単に信じてくれたと、エリーナは驚く。だが、これで分かった。イレーネはトーレスと関わっている。


「イレーネはどこにいるのかしら?」

「そんなこと、言うわけがないだろ」

「返してよ、イレーネさんを返して!」


 クラーラの言葉に、トーレスは困ったように頭を掻く。


「俺としては、あいつを引き取ってくれるなら、願ってもないことだが」

「どういうことですの?」

「俺たちは誰一人、あいつの参加を望んじゃいない。あいつは、俺たちとは違う」

「では――」

「それでも、それをあいつが望まない。何を言ったって、あいつは聞く耳を持たない」

「私が説得する。私は絶対にイレーネさんを連れ帰るから」

「だとしても、居場所を知られるわけにはいかないな」

「では、私を拘束しなさい」


 トーレスは眉をひそめる。


「何を考えている?」

「言葉以上の意味なんてありませんわ。私を拘束し、あなた達の好きなように利用すればいい。だから、イレーネのところに連れて行きなさい。そして必ず、彼女たちがイレーネを救いますわ。あなた達の代わりに」

「まさか、殺されないとでも思っているのか?」

「それが、あなたたちの望みなら、それも致し方ありませんわ」

「簡単に言うなよ。絶望を知らないお前が、軽々しく言っていい言葉じゃない」

「私なりに覚悟を持ってここにおりますわ。それが、あなた達を見捨て、逃げるようにこの地を離れた、私なりの罪滅ぼしですわ」


 暫く睨み合った後、トーレスはため息を吐く。

 

「……お前、そんな奴だったか?」

「変わったのでしょう。私は4年間もずっと、馬鹿で、変わった、それでいて優しい人間を見続けましたのよ。トーレス、人は変わりますわ。今、この瞬間も」

「変わらない人間もいる」

「そうですわね、では、あなたはどうですの?」

「化け物の俺に、そんなことを問うのか?」

「この少ない時間の中で、私は貴方を人間だと判断しましたのよ、トーレス」


 エリーナの言葉に、トーレスは苦笑する。


「もう一度だけ問いますわ、トーレス。あなたはどちらですの? 貴方は変わらないまま、私に槍を向け続けるのかしら」

「俺は変わらない。変わらないまま、ずっと馬鹿のままだ」


 そう言って、彼は左手を何もない空間に向かって伸ばすと、ドアが現れる。


「だから、俺はお前の言葉を信じてしまう」


 彼はドアノブを掴む。


「私を拘束しなくていいんですの?」

「不自然な動きをしたら、容赦なく殺す。それは忘れるな」


 ドアが開く。そこから微かな光が漏れてくる。


「先に言っておく、これは俺の独断だ。俺はお前らが何もしなければ手は出さない。しかし、他の奴らの行動までは保証しない。それでも良ければここを通れ」


 エリーナがクラーラ、マリアの順で目配せする。二人共、静かに頷いた。


「マリア、気を付けてください」


 頭上からソフィーの小さな声。


「私が言うのもなんですが、彼の外見は人間でも、中身は化け物そのものです」

 

 マリアは、トーレスを眺める。

 

「それでも、彼の心は人間だと思いますよ」


 ソフィーのため息が聞こえた。


「嘘はついていないようですが、どうか気は許さずに」

「分かってます」


 マリアは光の玉を消すと、エリーナ、クラーラの後に続いて、扉を通り抜けた。

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