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第三十話 永遠

 シェディム王国。精霊の子が築いた国。神々の遺物を多く残し、奇跡を起こす、人の唯一の国家。城を中心にし、市内を囲う城壁の長さはおよそ30㎞。その王国の周りには結界が張られている。神々が残したと言われる神器の1つ、結界を生み出す装置に聖女は魔力を定期的に流す。その間隔は聖女の魔力により異なる。今の聖女は1か月ほどの間隔で魔力を流し込む。それは彼女の、膨大な魔力により可能となる間隔。


 国は1つだけ。しかし大貴族の治める土地がいくつかあり、それは1つの小さな国家となっている。小国とも呼ばれているが、王国は国として認めていない。小国はすべて王国の管轄内だが、実際は大貴族により管理され、王国はほとんど関わっていないのが実情である。

 

 人が治める国の他に、エルフが治める国、ドワーフの治める国があるが、どちらも数百年国交が断絶となっている。



 ――――――



 次の日の早朝、馬車で王都まで帰還した。途中でヴァレッタに寄り、兵士や領主の方々から祝福を受けたが、夕方になる前には戻ってこれた。


 城門前から人だかりができており、中々に派手なパレードとなっていた。いつも外側から眺めていただけなので、マリアとしては感動を覚えた。ソフィーは相変わらず無表情で興味がなさそうにしている。


「ソフィー様、みんなが祝ってくれてますよ」


 馬車の外を見ながら、マリアは嬉しそうに言った。

 

「だから、何ですか。私には関係ありません」

「関係なくなんかないですよ。だって、ソフィー様がいたから、みんなの笑顔があるんですから」

「なんですか、それは」


 ソフィーは鼻で笑う。

 

「ソフィー様がいるから、今、私はここにいるんですよ。だからあなたに、祝福を」


 マリアは馬車の窓にかかるカーテンを閉め、ソフィーの方に身を乗り出す。


「ソフィー様が他の全ての人の祝福を信じられなくても、私があなたの勇士を称え、祝福したいって、この気持ちだけは信じてくださいね」


 ソフィーはマリアを見つめる。


「あなたのことなんて、信じられません。でも、今ここにいる、今のあなただけは、信じています」


 ソフィーはマリアの頬に触れる。


「あなたは、私を裏切りませんか?」

「私はあなたを、裏切りませんよ。かならず」

「駄目ですね、私は今のあなたしか信じられない」

「どうしたら信じてくれますかね?」

「あなたの心を、もっと私にください」


 ソフィーはマリアの顔に近づいていく、少しずつ。


 触れるか、触れないか、そんな距離で、二人はしばらく見つめ合った。


「好きですよ、ソフィー様」

「好きの意味も知らないのに?」

「あなたに触れたい。それが答えじゃだめですかね?」


 マリアはソフィーの服の裾を軽く引っ張る。

 

「私も、あなたに触れたい、もっと、あなたの心を知りたい」

「では、もっと触れてください」

「マリア、目を閉じて」


 唇に触れたのは、ほんの一瞬。でも、それは永遠のように感じた。



 ――――――

 

 

 お城では豪華な祝賀会が行われた。ほとんど準備はできていたが、大変そうだったのでメイド服に着替えて、マリアも手伝った。とは言っても、食器などを運ぶだけだが。


 気に食わないのは、王族や貴族だけでのパーティであり、命を懸けて戦った人間はほとんどその中にいない。何より、ここにソフィーがいないことを、マリアは許せなかった。

 何だかすごくバカバカしい気持ちになってくる。

 とりあえず大量においしそうな料理をくすねて、マリアはソフィーの部屋に向かった。


 相変わらず長い階段を登り切り、部屋の扉を叩いて、声をかけてから中に入った。


 ソフィーはベットから上体を起こす。机の上にあるランタンを魔法で火を点けた後、縁の部分に座る。そして、自分の隣を叩いた。

 少しだけ、マリアは身を硬くする。

 唇の感触を思い出し、1人で勝手に赤面する。あれから、何故かソフィーの顔を直視出来なくなった。

 大した事はないと思っていたのに、少し触れただけでマリアは一杯一杯になった。なのに、ソフィーはさらにキスをしようとしてきたため、マリアは全力でそれを止めた。これ以上は自分の身が持たないと分かったからだ。だから、不満気に自分を見るソフィーが余裕そうに見え、マリアとしては悔しい気持ちで叫びたい気分になった。


「マリア、まだですか?」


 ソフィーは自分の隣を、再び叩いた。先程よりも、少し強めに。

 マリアは躊躇したが、意を決してソフィーの隣に座った。


「パーティで美味しそうなもの、たくさん持ってきましたよ。これはもう、ハッピーですねぇ」


 マリアが持ってきたのは、ものの見事に肉料理しかない。バランスのへったくれもない、これがマリアのセンスだ。


「なぜこっちを見ないのですか?」


 マリアは冷や汗を掻く。ソフィーの視線を痛いほど感じるため、料理の方から目線が外せない。


「だって今は、食事の時間ですからねぇ。主役はこの子達ですから、ソフィー様も見てやってくださいな。きっと、嫉妬しちゃっていますよぉ」


 マリアは何とか、ソフィーの視線を料理達に向けさせようと必死になる。

 ソフィーはマリアを不満そうに眺めた後、料理に視線を向ける。


「では、私が食べさせてあげます」

「え?」


 トレイの上に乗ったフォークを掴むと、小さな肉を刺し、マリアの口元に近付ける。


「こちらを見なければ、食べられませんよ」

「いやー、でもぉ、私はメイドなのでー、流石にご主人様に食べさせていただく訳にもいきませんしー」


 マリアの目が泳ぐ。


「その主人が良いと言えば、それでいいんじゃないのですか?」

「いやー、でもぉ、私の方が2歳も年上ですしねぇ」

「マリアが、物心がついたころは何歳ですか?」

「え?」


 マリアは記憶を遡る。


「5歳、くらいですかねぇ」

「私は0歳です。だから、大丈夫です」


 謎理論が飛び出し、マリアは困惑する。

 

「そう言えば、私も0歳の頃の記憶が微かにあるようなないような、そんな気がしてきました」


 マリアは必死になって、昔の記憶を遡って行く。


 ソフィーは不機嫌な顔になると、体を起こし、マリアの前に立つと、彼女の持つトレイを片手で取り上げる。


「つべこべ言わないで下さい」


 フォークに刺したお肉を再び、マリアの口元に近付ける。

 マリアは目を瞑り、お肉を口にした。


「美味しいですか?」


 正直、味が良く分からなかった。


「今まで、可愛いと思う感情を理解できませんでしたが、今は良く分かります。あなたが顔を赤くし、戸惑う姿を見ていると――」


 ソフィーはフォークをトレイの上に置くと、マリアの顔に近付ける。息遣いが分かるぐらい、近くに。


「だから、その可愛い顔を他の人には見せないでください。見せてしまえば、私はその人をどうしてしまうか、分かりませんから」


 ソフィーはマリアの唇を、指で軽くなぞった。

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