表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/115

幕間 イレーネ

 みんなが寝静まった頃、私は上体を起こし、辺りを見回す。

 

 服の裾を引っ張られる感覚がして、私が向けた先にはクラーラがいる。私の名前を寝言でつぶやき、涎を垂らし、私に向かって、手を伸ばしている。

 

 私は彼女の頭を静かに撫でた後、彼女の額に軽く口づけをする。

 しばらく彼女を眺めた後、起こさぬようその手を私から離した。


 本当は分かっている。あんたが私の傍にいるべきではないことぐらい。

 突き放すタイミングなんて、いくらでもあった。それをできなかったのは、私の罪だ。


 誰も起こさぬよう、外へ出た。

 煙草に火を点けようとしたとき、中から人が出て来る気配がした。


 エリーナがこちらに近づいてくる。

 私はため息をつき、煙草に火を点けるのを諦めた。


「久しぶりですわね、イレーネ」

「ええ、エリーナ様。お久しぶりです」


 私は深々と頭を下げる。


「先程までのご無礼、お許しください」


 エリーナは静かに息を吐く。


「別に構いませんわ。それより、あなたは今まで何を?」

「冒険者として、ただ生きてきただけです。特別なことは何も」

「そう、今は王都の方に?」

「そうですね。私は、ロザリア家が治める土地を二度と踏むことはできませんから」

「そうですわね……」


 エリーナは空を見上げ、なぜかソワソワとしている。

 その姿が、私には少し意外だった。


「変わりましたね、エリーナ様は」

「そう思うのですか?」

「ええ、何となくですが」

「もしそうであるのなら、マリアさんのせいですわね」

「……よい、変化だと思いますよ」

「お父様は決して、喜びはしないでしょうけれど」

「……」

「あなたは、私を恨んでおりますか?」

「まさか、エリーナ様がいなければ、私は死んでいたでしょう」


 そう、私は彼女に感謝をしている。


 エリーナは少し躊躇してから、口にする。


「あなたは、私たちを恨んでおりますか?」


 その言葉に、私は笑いを必死にこらえる。


「大丈夫ですよ。そんなことをあなたが気にすることではないですから」

「私たちは、あなたに謝罪するべきなのでしょうね」


 心が、冷ややかになるのが分かる。

 

「謝る、必要なんてないですよ」

 

 そう、その必要なんてない。謝ってどうにかなる、そんな場所に――私は、私たちはもう、いないのだから。


 私は気にせず、煙草に火を点けた。

ここまで、読んでいただきありがとうございます!


広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、大変助かります!


作者の励みとなりますので!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ